若い人々の中で、「年金は払い損だ」と考える傾向が高まっています。しかし、それぞれの世代において自分が負担する保険料と年金給付額は、本当に不公平なのでしょうか? 経済コラムニストの大江英樹氏は「実際には決してそういうわけではないのです」といいます――。

※本稿は、大江英樹『知らないと損する年金の真実 2022年「新年金制度」対応』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。

ボクシングのエグゼクティブ
写真=iStock.com/jgroup
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世代間対立を煽るメディア

「おじいちゃんの世代は年金をたっぷりもらっているけど、僕らの時代にはきっと年金なんかもらえなくなるに違いない」とか「60歳以上の人は“逃げ切り世代”だけど僕らは絶対無理だよね」といった具合に世代間で大きな不公平が存在するということが話題になります。特にテレビの番組などでは、年代別に払ったお金と受け取るお金を面白おかしく漫画で棒グラフにして、いかに若い人が損をしているか、ということをこれでもかとばかりに見せます。

しかしこれは、かなり悪意に満ちた表示だと思います。数字自体は全く嘘ではないでしょうが、色んな数字を都合良くピックアップして見せている可能性が高いからです。

「2人に1人ががんになる」は80歳以上の人の話

たとえばがん保険の広告で「日本では2人に1人ががんに罹る時代です」と言われますが、これはあくまでも生涯罹患率の話で、そのほとんどは70歳以上の人です。国立がん研究センターの「がん情報サービス」サイト(※1)によれば、40歳の人が向こう20年間に罹患する確率は6.9%、70歳の人でも向こう10年間で罹患する割合は31.7%となっています。そして80歳以上の人がそこから罹患する割合が56.6%ですから、現実には2人に1人ががんになるというのは80歳以上の人の話だと言ってもいいでしょう。

※1 国立がん研究センター「がん情報サービス

後ほど、年金保険料の負担と年金支給額の関係を解説しますが、がん保険の広告と同様に数字自体は間違っていなくてもその利用の仕方でとんでもない誤解を招きかねないということが起こり得ます。

これはとても大事なことなので、これから先も繰り返し言いますが、公的年金で大事なことは「できるだけ多くの人が制度に参加し、その制度を支える」ということなのです。にもかかわらずマスメディアがこうした「世代間対立」を煽るような番組を作っているのは残念でなりません。