仏教は心の科学

けれど仏教には心をケアする教えが、たくさん含まれています。何しろ仏教の経典の95パーセントくらいは、身体のことではなく心の問題、心のことについて話しているのです。

ですから、その教えの中には我々の心の悩みをなくす方法やヒントも、もちろんあるわけです。

仏教は「心の科学(science of the mind)」です。「心理学(psychology)」ではなくて、私はあえて「science of the mind」という言葉を使います。

私がつくった言葉で、英語の辞書にはありません。仏教では、精神的なはたらきそのものを、物理学や科学と同じように徹底的に分析して、互いの関連性を理解する。そして自分の思うままにしようとするのです。

科学もそうですね。

新幹線や飛行機、宇宙船、いろいろなコンピュータなど、この世の中にすごいものはいろいろありますが、これらはすべて科学によってできたものです。

科学では、自然法則を理解して、いくつかの法則同士の関連性を調べて、互いにどのようにはたらくかということをきちんと理解して、それを人間の幸福のためにうまく使えるように工夫するのです。

科学には、このような「実践的な側面(practical aspect)」が確実にあるのです。

蓮の花
写真=iStock.com/niuniu
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そういう視点で経典を読むと、お釈迦さまが心を科学していることがよくわかります。簡単にはまとめられないくらい、膨大な心の法則についてお話しなさったのです。

ですから、わざわざカウンセリングとか、心理療法、心療、そういうテーマで細かく探さなくても、お釈迦さまの教えというものは、どこを見ても心が安らかになったり、心が治ったり、心が清らかになったりするのです。

仏教と心理学は目的が違う

仏教は心の科学ですから、実践的な側面があります。つまり「目的」があって、その実現に役立つのです。

では、その目的とはなんでしょうか? 言うまでもなくそれは「人間の幸福」です。そして仏教は、人間の幸福を実現するために「心の次元を破って超越することを目指す教え」なのです。

初めて本来の仏教に触れる皆さんには、目が点になるような話でしょう? けれど仏教が目指す究極の幸福は、心の次元を超越したところにあるのです。そのための方法をお釈迦さまは教えたのです。

教育の世界や、精神科のお医者さん、心理学関係の皆さんが考える「心が健康な状態」とは、つまり「一般的な社会で問題なく生きていられる状態」のことですね。

でも、仏教ではそうは考えません。たとえば、ヨーロッパの素晴らしいカウンセリングの専門家と私がいるとします。専門家なら、人がうまく社会で生きていられるようになるくらいのことは指導するはずです。

一方、私が指導するならば、社会をいかに脱出できるか、「心の次元をどうやって乗り越えるか」ということを教えたいのです。

二つの差は歴然としています。