開発者が注目した「責任世代」のつらさ

なぜここまで早く人気が広がったのか。その大きな理由は、後ほどご紹介しますが、デジタルサックスの開発にあたって、宮崎さんたちがまず意識したのは、メインターゲットとなる男性(おもに30代後半~50代後半)に共通のキーワード、「責任世代」だったそうです。

ヤマハ 電子楽器事業部 宮崎裕さん(写真提供=ヤマハ)
ヤマハ 電子楽器事業部 宮崎裕さん(写真提供=ヤマハ)

「責任世代の男性は、仕事に忙しい半面、ゴルフや釣り、バイクなど、過去にいくつか趣味を経験していて、多くがいわば“酸いも甘いも”知り尽くしているでしょう。一方で、趣味について回る『コミュニティ』のつらさも、多少は知っているはず」だと宮崎さんは言います。

サックスについても、一般のアコースティックサックスは、一人ではなかなか演奏しづらい。多くの人はバンドやサークルに所属して、他の楽器とともに発表の場、すなわち演奏会やコンサートなどを目標に練習するケースが一般的です。宮崎さんは、「仕事以外でも人間関係に気を使うとなると、それなりに大変だと思う」と分析します。

夜間でも練習可能

そこで、同社のデジタルサックスが重視したのは、「いつでも、どこでも、誰でも」カジュアルにサクソフォン演奏の楽しみを味わえるというコンセプトでした。

「いつでも、どこでも」を可能にしたのは、デジタル技術による15段階の音量調節です。ヘッドホンやイヤホンを接続すれば、夜間でもリビングルームでも音を外に漏らさず、のびのび演奏できる。「会社帰りや休日のひとり時間に、あるいはリビングのテレビから流れてきたCM曲を、家族の前で(小音量で)カジュアルに演奏し、『さっきのCM曲、お父さんが青春時代に聴いていた曲だよ』など、会話のきっかけにもなるはずです」(宮崎さん)

そしてもう一つ、「誰でも」のポイントは、吹き口に息を吹き込むだけで、初心者でもすぐ音を出すことができること。

さらに、息の圧力によって音量や音色に繊細な変化を加えられるので、「音を出すためのコントロール技術にばかり気を取られず、心のまま演奏する“感性”の領域に注力できると思います」(宮崎さん)