「御意」では新しい価値は生まれない
三菱化学(現・三菱ケミカル)に復職して5年後、三菱ケミカルリサーチの社長に就任。社長になりたいと思ったことはなかったが、部署単体ではなく会社全体を見渡せるという役割に興味が湧いて引き受けた。やりたいことを実践するには、上司と部下の間に挟まれる中間管理職よりも、トップのほうがスピード感をもってできるだろうという思いもあった。
実際、社長に就任してからは、自分が課題と感じたことに対して直接的に策を打っていけることの強みを実感しているという。環境負荷の削減や有用な情報の提供、社員がチャレンジできる風土づくりなどに、率先して取り組みを続けている。
ただ、社長という立場上、周りをびっくりさせるような意見を出すことがあるが、「御意」のような反応が返ってくる場合には危機意識を抱いており、「遠慮なく反論してくれる人を増やしていかねば、よりよく変えていくことができない」と力を込める。
「そもそも、皆が『いいね』と言うものなんて新しくないでしょう。『はぁ?』って言われるような案こそが、新しい価値を生み出すと思うんです。だから社長としても、社の全員がそう行動できるように、失敗でなく挑戦を評価していきたいですね」
ピアノは今も特別な存在
プライベートでは一児の母。30歳で出産し、両親や夫、上司、同僚など「さまざまな人のサポートの下で生きてきた」と語る。その娘は今25歳。化学を勧めたことはないのにもかかわらず、母親と同じ道を歩み、現在は競合にあたる化学会社で研究者として働いている。
そして高校まで打ち込んでいたピアノは、今も人生の大きな支えだ。華房さんにとってはなくてはならない存在で、どんなことがあっても演奏すれば無になれるという。
「ピアノは特別な存在で、これだけはずっと離れたくないですね。仕事は、それが社会の中で必要な役割だと認識できさえすればどんな役割でも大丈夫。私の軸は何かの役に立ちたいという思いなので、それが実現できるなら今後もどこへでも行くつもりです」
■役員の素顔に迫るQ&A
Q 好きな言葉
無為自然
Q 愛読書
楽譜『ピアノ協奏曲 イ短調』グリーグ(現在練習している曲)
「ピアノの楽譜を読むのが好き。特にバッハやショパンの楽譜はとても美しく、そこから物語を受け取って想像をふくらませています」
Q 趣味
ピアノ、バイオリン、華道、ジャニーズ(嵐の大野くんファン)
Q Favorite item
付箋
「大事なことはこれに書いて貼っておかないとすぐ忘れてしまいます。付箋がないと生きていけません(笑)」
文=辻村洋子
1989年、東京大学大学院農学系研究科修了。三菱化成(現・三菱ケミカル)入社。研究部門や事業化推進部門、国連の関連機関の一つ「グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)」、三菱ケミカルホールディングス経営戦略室などを経て、2014年より内閣府官民人材交流センター副センター長および大臣官房審議官(男女共同参画局担当)。2018年、三菱ケミカル執行役員就任。2021年より現職。家族は夫と娘1人。