父親が育児の当事者となる意味は大きい
「産後うつ」という言葉に象徴されるように、産後の数カ月は本当にしんどい時期です。体力、気力ともに限界なのに、周囲からは母親だから、産んだのだから世話をして当たり前と言われてしまう。母乳は? 上の子の世話は? 俺の飯は? と夫の協力も得られず、気がつけば夫婦の仲が冷え切ることも珍しくはありません。夫婦の間で子どもを産み、育てる当事者としての意識に「溝=ギャップ」があるのは明らかです。しかも、社会もそれが当たり前としてきたのですから根が深い。
その点、今回の法改正は企業という社会を構成する単位に切り込み、男性を育児の当事者と明確に位置づけたことで、ジェンダーギャップの解消が強く打ち出されました。育児=母親という社会通念が解消し、男女ともに一定期間の育休取得が当たり前になれば、「女は出産で休むから」という理由での雇い控えや受験や就職に際しての一方的な足切りも減っていくでしょう。
“父親教育”は自治体や企業など社会で行うべき
少子化対策という面でも、男性の当事者意識が増して、母親の負担や孤立感が減ることで「もう一人子どもが欲しいな」と思う家族が増えるというストーリーは合理的です。そこでもう一つ社会に期待したいのは、父親としての責務をどう教育するかです。
夫が育休を取得したのはいいけれど、泣き続ける子どもをよそにゲーム三昧では困りますよね。実際、内閣府男女共同参画局「『平成28年社会生活基本調査』の結果から~男性の育児・家事関連時間~」では、6歳未満の子どもを持つ共働き世帯で、およそ8割の男性が家事を全く行っておらず、およそ7割は育児を全く行っていないことが明らかになっています。
そこを責めるのは簡単ですが、男性にも当事者意識を育てる機会が必要です。よく、新人社員を育てるようなつもりで、パートナーの当事者意識や家事・育児スキルを育てなさいとアドバイスをする人がいますが、出産後の女性はそれどころではありません。
幸いなことに、最近は自治体の支援する両親学級や父親学級も増えてきました。今後、男性育休を推進する企業にも「企業版・両親学級」を当たり前に開催していただきたいと思います。
ほんの数年前まで「イクメン」という名称は、ある種のやゆが含まれていました。しかし今では、当たり前に普通名詞化しています。男性育休も同じこと。最初は色々言う人も出てくるでしょうが、一旦、始まった流れは止まりません。法制度が整ったことでカルチャーそのものの変化も期待できます。さらに理解が進めば、両親のみならず、社会全体が当事者としての意識を持つようになり、本来の意味でジェンダー・ニュートラルな男女共同参画の育児環境が整うのではないでしょうか。
構成=井手ゆきえ
大阪大学医学部卒業後、同大学産婦人科に入局。周産期医療を中心に産婦人科医療に携わる。2007年、川崎医科大学講師に就任。ロンドンに留学し胎児超音波を学ぶ。12年に第1子、15年に第2子を出産。2017年に丸の内の森レディースクリニック開院、一般社団法人ウィメンズリテラシー協会代表理事就任。『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』『産婦人科医宋美玄先生が娘に伝えたい 性の話』『医者が教える 女体大全』『産婦人科医が伝えたいコロナ時代の妊娠と出産』など著書多数。