次に転職したベンチャー企業ではIR(投資家向け広報)を担当。ここでは、財務諸表を通して社長の主張を投資家に伝えようと奮闘しました。その過程で、投資家やアナリストと語り合うには、会計分野の言語だけでなくファイナンス分野の言語も必要だと思い、証券アナリスト資格にチャレンジしました。両方の世界の共通言語を学んだことは、今の仕事にも大きく役立っています。操れる言語が多ければ多いほど表現の幅が広がり、伝えられることも増えていく。そう実感しています。
CFOになって気づいた数字のすごみ
CFOは、数字で社長の主張を伝えるだけでなく「つくっていく」仕事です。そのためには、会社の未来の姿も数字で表現できなければなりません。それまで、数字は事実や過去を語るための言語だと思っていましたが、CFOになってから、将来起こそうと思っていることや目指している姿も語れるのだと気づきました。あらためて数字のすごみを感じた瞬間でした。
数字力は英語力と同じで、使い続けていれば意外と簡単に身につきます。苦手意識がある人は、まず「比較」で数字を読み解くことに挑戦してみてはどうでしょうか。自社の数字を、去年の実績や他社の数字などと比べてみてください。多い・少ない・何倍など、見えてきたものを他者への説明に入れていくうち、伝えたい事柄に合った比較対象の選び方がわかってくると思います。加えて、ビジネス数字を扱ううえでいちばん大事なアプローチ「割り算」も習慣にしてみては。ある数字の全体に占める割合や社員1人当たりの数値を求めると、総数からはわからない事実が見えてきて面白いですよ。
また、取引先と会う前にはぜひ財務報告書に目を通してください。財務報告書、プレスリリース、社長メッセージは企業の三大発信物です。財務報告書を見ないのは、相手が伝えてきていることをひとつ取りこぼすのと同じ。それはもったいないですから、相手を知るためと思って事前に読んでみてはどうでしょうか。
数字で伝えることについては、私自身もまだまだ勉強中。書籍や他社のIR資料などをチェックして、表現方法を吸収するように心がけています。また、会計士資格は毎年研修を受けないと維持できないので、その勉強も続けています。でも、ビジネス数字の本質は、思いや主張を伝えたり受け取ったりするための「言葉」。苦手意識がある方も、英語を学ぶ感覚で気軽にトライしていただきたいですね。
構成=辻村洋子 撮影=干川 修
一橋大学商学部卒業。在学中に公認会計士試験論文式試験に合格。あずさ監査法人にて会計監査に従事した後、カカクコムに入社し財務経理部長、企画IR室長などを歴任。2018年、教育系ベンチャー「スタディプラス」のCFOに。公認会計士、証券アナリスト。