「育休からの早期復帰支援」の意図

【木下】第三の取り組み方針では「出産や育児を乗り越えるための施策」を挙げられていました。育休については他の大企業と違い、法定以上の育休や時短を制度化せず、逆に早期復帰を奨励しているそうですね。日本のトレンドに逆行しているようにも見えますが、なぜなのでしょうか。

【野間】仕事と育児の両立支援は、当社では「働き続けることが能力の向上につながる」という考え方の下、子育て支援ではなくキャリアアップ支援に力点を置いています。育児と並行して仕事にも打ち込み、会社に貢献して成長し続けたい──。そうした人を最大限支援しようという考え方ですね。

具体的に早期復帰を支援するためのさまざまな施策を実施しています。これは法定通り休みたい人を早く復帰させようとするものではなく、早期復帰してがんばりたい人を応援する制度です。育休から6カ月未満もしくは1年未満で復帰する人は、ベビーシッターの費用などを補助したりする「育児支援カフェテリアプラン制度」の会社補助額の増額や柔軟な勤務形態の活用といった支援策を受けられるようになっています。

最初は私も皆に喜ばれるかどうか不安でしたが、実施してみると意外にすんなりと定着しました。人見知りをしない0歳のうちに預ける方が子も親も負担が少ない、キャリアブランクが短い分早く仕事の勘を取り戻せる、現場での人員配置がしやすいなど多くのメリットがあったようです。今、当社では年間80〜100人程度が育休から復帰していますが、1年未満での復帰が4割程度、6カ月未満も5~8人程度と一定数います。

撮影=小林久井(近藤スタジオ)

【木下】プロジェクトの推進に際しては、海外の先進企業も視察されたそうですね。

【野間】やるからには他社がやっていないことにも挑戦したいと思い、2014年ごろから海外出張のタイミングで他社を視察訪問するようになりました。全部で7カ国21社を訪問し、「これをやれば女性活躍が進むというような魔法の杖はない」「女性活躍は競争力やイノベーションの源泉である」という2つのことを学びました。女性活躍は、やはりさまざまな取り組みを着実に続けていくこと、取り組みを業績向上に結びつけることが、今も大事だと思っています。

また、アメリカにならって女性フィーダーポジション制度も導入しました。これは、各部門であらかじめ「ここには女性を登用する」と決め、候補者を計画的に育成していくポジションのことです。当社では管理職や製造現場のリーダーなどに特に女性が少なく、何か制度を変えないと登用に結びつかないと考えて取り入れました。導入後は毎年、各部門でポストと候補者の両方をリスト化してもらい、必要なスキルや経験を明確にした上で育成・登用に取り組んでもらっています。