「PRESIDENT WOMANダイバーシティ担当者の会」では、2021年5月より、会員である企業の人事・ダイバーシティ担当者に向けて定期的なウェビナーの開催を始めました。今回ご登壇いただいたのは、以前からトップダウンで女性活躍推進プロジェクトを推し進めているダイキン工業株式会社の野間友惠さん。野間さんは同プロジェクトを牽引する存在で、同社男性社員の平均よりも早く部長昇進を果たしています。木下明子編集長が、「女性の昇進意欲を高める早期リーダー育成」をテーマにお話を伺いました。
ダイキン工業株式会社 人事本部人事企画グループ長(部長)野間友惠さん(左)。緊急事態宣言発出を受け、リモートでのウェビナー登壇となりました
撮影=小林久井(近藤スタジオ)
ダイキン工業株式会社 人事本部人事企画グループ長(部長)野間友惠さん(左)。緊急事態宣言発出を受け、リモートでのウェビナー登壇となりました

トップの意思で強力に推進していく

【木下】御社は、経済産業省と(株)東京証券取引所が共同でが女性躍進に優れた上場企業を選定する「なでしこ銘柄」に7年連続で選定されています。女性活躍推進を本格化された経緯を教えていただけますでしょうか。

【野間】2011年、会長直轄の女性活躍推進プロジェクトが発足し、本格的な取り組みがスタートしました。当社はそれまでもダイバーシティ推進には取り組んでいたのですが、多様な社員層のうち女性の活躍が最も遅れていたため、この部分を全社的に推進することになったのです。社外のランキングでも、当社の女性活躍推進に関する項目は最低レベルで、女性比率も女性管理職比率も製造業平均に満たない状態でした。

【木下】そうした危機感から取り組みが始まったのですね。プロジェクトにはどんなメンバーが集まり、どんな方針を立てたのでしょうか。

【野間】会長がプロジェクト推進を表明してから数日後に、まだ入社5年目だった私を含めて6人の女性社員が会長室に呼ばれました。その場で会長から「課題を洗い出して取り組み内容を明確にするように」と指示があり、以降は社員の意識や他社の取り組みなどを調査しながら、会長とディスカッションして3つの取り組み方針を策定していきました。

第一の方針は、意欲と能力ある人材は男女同様に厳しく育て、成長できるチャレンジングな仕事を渡すこと。第二は、育成部分は女性に手厚くするが登用は男女公平とし、数字合わせの女性優遇の登用はしないこと。第三は、出産や育児を乗り越えるための施策を実施し、特にキャリアブランクを最小にしてがんばりたい女性に最大限の支援をすることです。

この方針に沿って、研修などによる女性管理職の育成加速、男性管理職・リーダーの意識改革、出産・育児からの早期復帰支援、女性の積極採用など、さまざまな取り組みを進めていきました。

女性活躍推進は「経営施策」

【木下】女性管理職の育成加速については、20〜30代の若手女性を選抜してリーダー研修を実施されているそうですね。その理由や選抜基準を教えてください。

【野間】現状、当社は女性社員比率が17%、女性管理職比率が6%とまだまだ男性社会の会社です。2005年から女性の積極採用を続けて人数的には増えたのですが、世代的にはこれからライフイベントを迎える30代後半までの女性が7割を占めています。そのため、全社的な取り組みの対象としては、この世代の女性社員とその上司に当たる管理職層を中心に据えました。

30代半ばを過ぎると、仕事に慣れてきて自分の得意不得意もわかり、「私はこのままこの道で行くんだな」と自ら道を狭めてしまいがちです。その前にリーダー研修を受ければ、視野が広がって思っていた道以外のキャリアもあると気づくことができますし、出産や育児などのライフイベントを経ても仕事への意欲を維持しやすくなります。実際、この点は若い女性社員の意識改革にかなり効果的だったと感じています。

また選抜は、部署ごとに意欲や姿勢に秀でた女性を挙げてもらい、その中から年間20人に対して研修を行っています。これによって、女性社員の中に「去年は先輩が選ばれたから今年は私かな」という雰囲気が生まれ、仕事への意欲向上につながっているようです。

撮影=小林久井(近藤スタジオ)

【木下】ご自身もその20人に選抜されたそうですが、実際に研修を経験されていかがでしたか?

【野間】私自身、当時は明確なキャリアを描いてはいなかったのですが、研修を通して女性社員への期待やポジションが上がることの醍醐味などを知り、意識が大きく変わりました。この先ライフイベントがあるからと昇進をためらうのではなく、チャレンジしてみてから考えればいいと思えるようになりましたね。

研修運営の立場からは、参加者の意識改革に特に効果的だったと感じたのは、本人たちが社内外のリーダーにインタビューするというものでした。身近なリーダーに話を聞くことで「管理職って大変だと思ってたけど自然体でいいんだな」と気づき、身構える気持ちが少なくなっていったようです。

【木下】女性管理職を増やすには、本人のそうした意識変化も重要ですね。一方、先ほどの取り組み方針の中には「数字合わせの女性優遇の登用はしない」という項目がありましたが、これはなぜでしょうか。

【野間】当社は育成の機会は女性の方が多いですが、幹部や管理職への登用については、男女問わず「十分に育った人」のみとしています。能力や経験が足りない人を管理職にしても、会社の発展や成果創出にはつながらないからです。当社の女性活躍推進は福利厚生施策ではなく、今後の会社の発展を支える経営施策。数字合わせの登用は、そうした成果につながるとは思えません。

「育休からの早期復帰支援」の意図

【木下】第三の取り組み方針では「出産や育児を乗り越えるための施策」を挙げられていました。育休については他の大企業と違い、法定以上の育休や時短を制度化せず、逆に早期復帰を奨励しているそうですね。日本のトレンドに逆行しているようにも見えますが、なぜなのでしょうか。

【野間】仕事と育児の両立支援は、当社では「働き続けることが能力の向上につながる」という考え方の下、子育て支援ではなくキャリアアップ支援に力点を置いています。育児と並行して仕事にも打ち込み、会社に貢献して成長し続けたい──。そうした人を最大限支援しようという考え方ですね。

具体的に早期復帰を支援するためのさまざまな施策を実施しています。これは法定通り休みたい人を早く復帰させようとするものではなく、早期復帰してがんばりたい人を応援する制度です。育休から6カ月未満もしくは1年未満で復帰する人は、ベビーシッターの費用などを補助したりする「育児支援カフェテリアプラン制度」の会社補助額の増額や柔軟な勤務形態の活用といった支援策を受けられるようになっています。

最初は私も皆に喜ばれるかどうか不安でしたが、実施してみると意外にすんなりと定着しました。人見知りをしない0歳のうちに預ける方が子も親も負担が少ない、キャリアブランクが短い分早く仕事の勘を取り戻せる、現場での人員配置がしやすいなど多くのメリットがあったようです。今、当社では年間80〜100人程度が育休から復帰していますが、1年未満での復帰が4割程度、6カ月未満も5~8人程度と一定数います。

撮影=小林久井(近藤スタジオ)

【木下】プロジェクトの推進に際しては、海外の先進企業も視察されたそうですね。

【野間】やるからには他社がやっていないことにも挑戦したいと思い、2014年ごろから海外出張のタイミングで他社を視察訪問するようになりました。全部で7カ国21社を訪問し、「これをやれば女性活躍が進むというような魔法の杖はない」「女性活躍は競争力やイノベーションの源泉である」という2つのことを学びました。女性活躍は、やはりさまざまな取り組みを着実に続けていくこと、取り組みを業績向上に結びつけることが、今も大事だと思っています。

また、アメリカにならって女性フィーダーポジション制度も導入しました。これは、各部門であらかじめ「ここには女性を登用する」と決め、候補者を計画的に育成していくポジションのことです。当社では管理職や製造現場のリーダーなどに特に女性が少なく、何か制度を変えないと登用に結びつかないと考えて取り入れました。導入後は毎年、各部門でポストと候補者の両方をリスト化してもらい、必要なスキルや経験を明確にした上で育成・登用に取り組んでもらっています。

2025年に女性管理職120人を目指して

【木下】一連の女性活躍の取り組みに関して、男性から「女性を優遇しすぎだ」といった声は上がりませんでしたか?

【野間】上がりましたが、会長がメッセージを発信したり、プロジェクトメンバーが直接説明したりといったことを続けるうちに理解してもらえるようになりました。女性活躍推進は社の発展に必要不可欠な施策で、放っておくと男性優遇になるからこそ「期間限定」で女性の背中を押していくのだと。加えて、確かに研修等の育成の機会は女性の方が多くなっているけれど、その分結果を求めていくとも伝え続けました。

また、管理職対象の研修や講演会でも同じことを伝えるようにしていました。欠席者にはDVDを送って感想を書いてもらうなど、全員に理解してもらうために徹底的に追いかけましたね(笑)。それから8年が経って世の中も変化し、今では女性活躍推進の理由を問う人もほとんどいなくなりました。

【木下】残る課題は何でしょうか。たとえば望まない転勤への対策や、男性育休、男性の家庭参画といったことについてはどうでしょうか。

【野間】転勤は当社にとっても課題ですが、今のところは制度ではなく、家庭の事情で転勤できずに離職した人を再雇用する個別対応を実施しています。

また男性の育休については、子どもが産まれた男性とその上司にハンドブックを送るなどして取得を促しており、2020年度の取得率は約93%、平均取得日数は約13日でした。男性の家庭参画では、育休を取った本人や上司、社内結婚ならパートナーとその上司にも参加してもらう「育休復帰者セミナー」などを実施しています。これを始めてから、男性育休に上司の理解が得られないだとか、女性ばかりが育児をしてキャリアにブレーキがかかってしまうといったことは少なくなってきました。

こうしたさまざまな取り組みを通して、男性社会だった頃の風土も変わってきています。プロジェクトを始めた8年前に比べて女性比率はかなり向上しましたし、女性管理職数も3倍以上になりました。女性の職域も拡大し、出産や育児を経ても活躍を続ける女性があらゆる層で増えてきました。この「実際に女性が活躍している」という事実が、風土が改革されたということを示していると思います。

【木下】ご自身のキャリアについて、また御社の女性活躍推進について、今後の目標や展望をお聞かせください。

【野間】入社当時は、今のようなキャリアは思い描いていませんでした。自分の知識の範囲内で考えていたので、こうしたいなと想像できる範囲も狭かったのだと思います。ここまで成長できたのも、環境や人に恵まれ、さまざまな機会を通して視野を広げてもらったおかげです。これからも「チャレンジして成果を出す」「成長する」の2点にこだわって、会社に貢献していきたいですね。

そして女性活躍推進プロジェクトでは、「2025年に女性管理職120人」を目指しています。現状から考えると少し背伸びした目標ではありますが、育成に力を入れながら少しでも近づけるよう進めていくつもりです。さらに、当社のダイバーシティ戦略は、今は女性、障害者、ベテランといった属性ごとに取り組みを行っていますが、究極的には属性に関係なく、一人ひとりが能力を最大限発揮できるような風土にしていきたい。そこを目指して、引き続き一生懸命取り組んでいきます。