女子は高い点を取らないと合格できない
導入時には女子学生の進学を促そうと、格差是正のためにつくられた東京都立高校の男女別定員が、現在ではむしろ女子学生の足かせになる問題がおこっている。
戦前は、男子は旧制中学、女子は旧制高等女学校など、男女が別々に教育を受けていたが、カリキュラムが異なっていたこともあり、男女の学力差が大きかった。このため、戦後に都立高校を共学化するにあたって、東京都教育委員会は、女子を救済するため、1950年度に男女別の定員を設けたという歴史がある。
そこから状況は大きく変化した。私も過去に記事を書いたことがあるが、都立の男女別定員制度は、今では男子に比べて女子の平均合格点をあげてしまっている。つまり、「同じ共学の高校でも、男子よりも女子の方が高い点数を取らないと合格できない」ということが起こっているのだ。一部の学校では、それを緩和する是正措置をとってはいるが、それでも幾分かの点差はあるだろうとは思われていた。
ところが5月26日の毎日新聞の記事によれば、是正前には女子の合格点が最大で426点高く、是正しても243点の差があったという。ちなみに1000点満点である。そこまでの点差となれば、そもそも公平な入試と言えるのかと皆が驚いたのも道理であろう。
「私立から学生を奪ってしまう」
なぜこんな明らかな不公正が続いているのだろうか。以下は平成30年度(2018年度)東京都立高等学校入学者選抜検討委員会報告書における、中学校長の意見である。
「女子の私立高校から学生を奪ってしまうから、都立はそれに配慮すべきだ」というのである。いわゆる「15の春を泣かせない」、高校全入のために、民業を圧迫せず、都立の女子学生定員を減らすというのだ。しかしその一方で、女子学生を別の意味で泣かせている。
私立高と言えば、中高一貫校の豊島岡女子学園高等学校が2022年度入試から、高校からの募集を廃止するというニュースは、「最後のとりで、豊島岡も」というタイトルが朝日新聞でつけられるほどの衝撃を与えた。これで東京の女子私立高校は、トップの慶應義塾女子高等学校の次は、偏差値を10落とした学校しかなくなり、トップ校の空白地帯が生まれるからである。
早稲田実業学校の下には、中堅共学校ももちろん存在するが、男子のトップ校がまだかろうじて高校募集を継続していることに比較すれば、女子校の空白の異様さは明白である。私立の選択肢が減れば、成績上位の女子はさらに、都立校の選択の際に、「安全策」を取らざるを得なくなるだろう。