ゆがむ東京都の女子の選択肢

そもそも、経済的理由で、私立高校には進学させられない家庭もある。確実に都立に合格しなければならないと考えれば、受験校の変更も行われるだろう。私立に配慮した結果の都立の女子合格点の上昇は、明らかに進学機会や選択をゆがめている。

私立高校の選択肢は狭まっており、都立高校は女子が合格しにくい。「東京都の女子の高校受験は難しい」という思いから、中学受験をさせる家庭もある。しかし実は中学受験もまた、この男女別合格点のくびきから無縁でない。

例えば、青山学院中等部では、男子の合格最低点が162点であるのに対して、女子の合格最低点は191点と、300点満点で29点もの開きがある。ここまで大きな差ではないにせよ、ほかの共学校でも同様の傾向がみられる。この理由として、「女子のほうが元気がよすぎて、男子が負けてしまう」と某学校の校長が説明している記事を読んで、仰天した思い出がある。今回、記事を書くにあたってインターネットで検索してみたが、私が見たのとは違う学校でも「女子のほうが元気」「男子が負けてしまう」がよく使われているようである。

しかし、女子が元気で、男子が負けることの何が問題なのだろうか。

令和3年度(2021年度)東京都立高等学校入学者選抜検討委員会報告書でも、高等学校長はアンケートに答えて以下のように言っている。

○男女合同定員制を行うと往々にして女子の合格者が多くなる傾向があり、男子が入学できる余地を残しておくためにも、男女別定員制は意味があるのではないかと考える。また、男女合同定員制にすることで男子の入学者数が減り、文武両道を目指す学校では男子種目の縮小につながる可能性も考えられる。

「女子の合格者が増えることが問題だ」という発言自体が、相当に問題含みである。自分の中学時代を思い出しても、教師からは「女子は数学が得意でない」「空間図形はできない」など、励まされるよりは、心がえぐられるような発言が多かった。男女別平均点が算出されて、女子の平均点の方が上だと、決まって「男子が、女子に負けるとは情けない」と言われた。女子が成績優秀であること自体が、とがめられている気すらした。

こうしたプレッシャーが、今では皆無になったとまでは言えないだろう。そういうなかで勉強してきた15歳の女子が、男子を上回る点を取ったにもかかわらず、「女子が来ると、男子の枠がなくなる」とはっきりと言い渡されて追い出されるとは、あまりに残酷な制度のように思われる。