目まぐるしく忙しい選手生活

しかし、V・プレミアリーグと日本代表を掛け持ちするトップ選手の1年間は、傍目には想像もつかないほど目まぐるしい。

強烈なスパイクを決める荒木絵里香さん 写真=日本バレーボール協会提供
強烈なスパイクを決める荒木絵里香さん 写真=日本バレーボール協会提供

2017~18年シーズンを例に取ると、Vリーグが2017年秋に開幕。春まではシーズンが続くため、毎週末は公式戦で忙殺された。2018年4月からは日本代表の活動がスタート。ベテランの荒木さんは、全てに参戦したわけではなかったが、時間が拘束されることは少なくなかった。

さらに、8月にはアジア大会(インドネシア)、9月には世界選手権(横浜・名古屋ほか)と国際大会が続く。これにはもちろんフルで参加し、前後には休みなしの代表合宿があった。こうした怒涛の日々の後、わずかなオフを挟んでトヨタ車体に戻り、2018~19シーズンのVリーグに挑むという形だ。

他の競技と比べても、バレーボールは非常に拘束期間が長い。それを何年も続けているのだから本当に頭が下がる。選手たちは「昔からそうだから」と特に違和感を覚えてはいないようだが、子育てをしながらの女性選手にとっては非常に厳しい環境だ。

「自分がやっていることは、本当に正しいのか」

幼い子どもが、母親が置かれた状況すべてを理解することは難しい。荒木さんの場合も、幼い娘に「行かないで」と泣いて追いすがられることは少なからずあった。幼稚園で、精神的に不安定な様子を見せたり、荒木さんが遠征先からかけてきたテレビ電話に興味を示さなくなったりと、困惑する出来事もいくつかあり、両立の難しさを痛感させられたという。

2012年、ロンドン五輪で銅メダル獲得を決め歓喜する荒木絵里香さん(右端) 写真=本人提供
2012年、ロンドン五輪で銅メダル獲得を決め歓喜する荒木絵里香さん(右端) 写真=本人提供

「『自分がやってることは、本当に正しいんだろうか』という疑問を抱いたことも1回や2回ではありません。でもバレーボールを続けると決めた以上、途中で投げ出すわけにはいかない。一緒にいる時にたくさん愛情を示して、抱きしめることしかできないんだと思います」。荒木さんは、娘の和香ちゃんが5歳だった2年前、神妙な面持ちでこう語っていた。

夫の四宮さんは、悩む妻を見ながら「僕らは決していい親じゃないだろうけど、娘にはタフになってもらうしかない。絵里香のお母さんも頑張ってくれてますし、いつか娘も分かってくれる時が来ると思います」とかみ締めるように話していた。

欧州での生活が長く、子育て中のアスリートへの支援体制が整った現地のスポーツ環境を見てきた四宮さんは、女性アスリートが現役を続けにくい日本の状況に違和感を持っていた。ゆえに、自分たちが風穴を開ける存在になりたいと考え、荒木さんの選手活動を応援するスタンスを取り続けている。