年金を増やす方法4.年金の受給開始年齢を遅らせる

そして最後4番目の方法が受給開始年齢を遅らせることで、おそらくこれが最強の方法だろうと思います。年金の支給開始年齢は65歳からということはよく知られていますが、これはあくまでも「支給開始年齢」であって、この年齢にならないと受け取れないとか受け取らなければならないというわけではありません。受け取る側からすると受給開始年齢は現在60歳から70歳までの10年間の間、いつでも好きな時に受け取りを開始することができます。

よく「年金の受け取り開始を遅らせようとする国の陰謀だ」みたいなことを言う人がいますが、それはまったくの間違いです。何歳から受け取り始めても年金財政にはほとんど影響がありません。なぜなら65歳よりも5年早くして、60歳から受け取り始めると30%受取額が減りますし、逆に70歳まで5年間遅らせると42%受取額が増えます。この計算は平均寿命の伸び等も考えた上で数理的な計算をしてはじき出した数字ですから、どう選んでも財政的には中立なのです。

さきほど月額の平均的な年金額が専業主婦家庭で約22万円、単身だと15万円という数字が出てきましたが、繰り下げることでこの金額はそれぞれ約31万円、21万円となります。65歳から90歳まで25年間受け取った場合、月額22万円だと6600万円ですが、これが42%増となった場合、70歳から90歳までの20年間だとしても7440万円となります。

死んでしまえば損も得もない

よく「年金なんてどうせあてにならないのだから早くもらった方が得だ」ということで60歳からの受け取りを推奨する人もいますが、それはあまり感心しません。なぜなら年金というのは長生きというリスクに備えるための保険であって、どれだけ長生きしても死ぬまで年金が支給されるという仕組みですから、人生の後半の最後の部分に年金を多く受け取れる方が安心できるからです。

「でも70歳まで受け取りを延ばしてその間に死んじゃったら損じゃない?」と思う人がいるかもしれませんが、死んでしまえば損も得もありません。60歳から受け取り始めると30%の減額は生涯続きますので、長生きすればするほど後で受け取り始めた人との差は大きくなります。私自身、現在69歳ですが、65歳以降、まだ年金は一円も受け取っていません。来年4月からは現在70歳まで選べる選択肢がさらに拡大して希望すれば75歳から84%増で受け取れるようになります。これについてはまた別の機会にお話してみたいと思います。

このように公的年金は必ずしも決められた金額しか受け取れないわけではなく、工夫次第で増やすことができます。自分の働き方やライフプランに合わせて考えていくべきではないでしょうか。

大江 英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト

大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。