対話は合意を得るためのもの

結局、対話や議論は、合意(コンセンサス)を得るためにやっているのです。「コンセンサスを得られる」と信じていれば、コンセンサスは大抵得られます。極端な話、対決して「おまえはこうだ」と攻撃的に罵倒しあって勝ち負けを決めようとしていては、永遠にコンセンサスは得られません。逆に「あなたの言うことってこういうことですよね」「意見は違うけど、ここに共通の理解ってあるよね」というポイントを探していけば、うまくいくポイントが見つかりやすいのです。

なお、そもそも「そんなの喋る気ない」と言う相手もいるかもしれません。そんなときは、「鍛えてもらっているんだな」と思い、一生懸命いろいろ考えて頑張ってみましょう。

もちろん、新しいことに関する提案は「やってみないとわからない」部分もあります。

でも、それは相手もわかっています。「100%売れるとは言い切れないから」と提案を引っ込めずに、相手と対話をしていくとよい。そこはあきらめずにいきましょう。

目標を上げて共通の目的を探す

もう1つ、意見が対立したときは、まず目線をぐいっと上げてみることをおすすめします。

伊藤羊一『1分で話せ2【超実践編】』(SBクリエイティブ)

営業部と経理部では意見が対立していたとしても、会社の社長まで目線を上げて考えてみるとどうでしょうか。まず利益を出すこと、株主に対して責任を果たすことが大事なはずです。これについては、営業部も経理部も異論はないでしょう。

株主に対してスピーディに数字を開示することも、業績予想を達成することも両方大切だけど、全社で見ると、たとえばすでに数字は達成しているから経理部の方針を優先しましょう、といった共通理解は得られるのではないでしょうか(もちろん逆の結論もあります)。

「いや、社長の視点で考えてみても、どうも折り合いがつかない」

そんなときは、折り合えるポイントを見つけられるところまで、ひたすら上げ続けてみましょう。

極端に言ってしまえば、「人間は幸せに生きていきたい」「世界が平和であってほしい」ということに異論を唱える人はいないと思います。つまり、そのレベルまで話のレイヤーを上げてしまえば、どんな人でも折り合えます。

ただ総論では折り合っていても、それぞれの国であったり、業界や会社、部門ごとの事情が異なるために利害が対立するわけです。まず大きな目的を共有していることを再確認する。それができたら、各論に降りていって、その対立するポイントがどのレイヤー(層)にあるのか、特定する。このプロセスが大切です。

「このプロジェクトの目的は、そもそもこういうことですよね」(確認)
「うん、そうだね」
「そこは僕たち同じで、でも、A案がいいかB案がいいかということで意見が割れていますよね」(確認)
「そうだね」
「営業部の立場だとこう考えますよね。わかります。でも、経理部の立場だと、これをやってしまうとプロジェクトの遂行に支障があると思うんです。なぜかというと……」(対立するポイント)
「そうか、じゃあ、そこを改善するためにはどうしたらいい?」

こんなふうに話ができれば、お互いの理解が進みますし、物事は解決に向かうはずです。

伊藤 羊一(いとう・よういち)
Zアカデミア学長

1967年生まれ、東京都出身。東京大学経済学部卒業。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部学部長、LINEヤフー株式会社LINEヤフーアカデミア学長。グロービス・オリジナル・MBA プログラム(GDBA)修了。1990年に日本興業銀行入社。2003年、プラス株式会社に転じ、事業部門であるジョインテックスカンパニーにてロジスティクス再編、事業再編などを担当し、2011年より執行役員マーケティング本部長、2012年より同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括する。2015年にヤフー株式会社(現LINEヤフー株式会社)に転じ、現在はLINEヤフーアカデミア学長としてLINEヤフー株式会社全体の次世代リーダー開発を行う。2021年4月に武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)の学部長に就任。主な著書に、60万部超のベストセラー『1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術』(SB クリエイティブ)、『「僕たちのチーム」のつくりかた メンバーの強みを活かしきるリーダーシップ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『FREE, FLAT, FUN これからの僕たちに必要なマインド』(KADOKAWA)などがある。