※本稿は、伊藤羊一『1分で話せ2【超実践編】』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
「反論はあって当然」という前提に立つ
相手から反論されるのが嫌です。正直頭にきますし、説明もうまくないので反論されて終わってしまうことが多いのです。感情的になってはだめだと思うのですが、どうしたらいいでしょうか。
【POINT】
・相手のつもりになって、相手の「結論」+「根拠」+「たとえば」のピラミッドを理解しよう
・目線をとんでもなく上げてみよう
反論されてムッとしてしまうことは、誰にでもあると思います。自分が精魂込めてやっていればいるほど、頭ごなしに反論されたら、いい気はしません。でも、そこで感情的になってムッとした表情を出すのは、ビジネスパーソンとしてはNGです。
仕事ですから、反論はあって当然です。当然だという前提のもとに、自分のロジックのどの部分に反対なのか、それはなぜなのか、自分の意見と相手の意見のどこが違うのかということを、それぞれのピラミッドを比較しながら、確認してみましょう。
交渉もコミュニケーションの1つですから、ピラミッドをお互いにすり合わせていることには変わりません。
同じ社内でも、たとえば営業部と経理部、営業部と開発部で打ち合わせをすると、折り合わないことがしょっちゅうかもしれません。営業だったら、月次予算を達成することが大事ですから、ちょっとくらい締日を過ぎても売上を計上したいと思うかもしれませんが、経理部にとっては、月次決算をスピーディに出すことが最優先だから、そんなことはできないということもあるでしょう。それぞれ置かれている立場が違うわけですから、対立するのは当たり前です。
反論に対して質問で返す
反論してくる人に対しては「相手の考えの中で聞く」ということが大事です。
そのときの質問の仕方としては、「私はこう思いましたけど、どうですか」と上から聞くのではなく、極端に言えば、「(そんなに賢くない)私はあなたの意見をこういうふうに受け取ったんですけど、これはちょっと違ったりしますかね」というニュアンスがあると、相手は「苦しゅうない」となります。
そもそも自分のロジックで理解してもらえないときには、無理に自分の話をゴリ押しするのではなく、「相手のロジックって何なんだろうな」「相手のピラミッドはどのようになっているんだろうな」と考えながら聞いていくことがとても大事です。
話す側が「こうです。こうです。こうです」と言っている一方で、聞いている側は「いやいや、違うでしょ」としか考えていなければ、永遠にすり合いません。
だからこそ「何ですか」と聞くよりも、「まず相手に寄り添って、相手のつもりになって、相手のピラミッドを想像して理解してみる」こと。その後、仮説をもって「こうですか?」と尋ねる、というプロセスが必要なのです。
寄り添えば相手の態度も変わる
こちらが寄り添えば、相手も変わります。もし自分の説明が違う意見であっても、相手に寄り添うことで、相手も「いや、実はこうなんだよね」と自分に寄り添ってくれる「対話モード」に変わっていくことが多いのです
相手と意見が異なっていたら、「自分の世界」ではなく「相手の世界」で話すこと。コミュニケーションは、「あなた対私」の対決ではないのです。伝える側は、常に「あなたが」を主語に考えましょう。「あなたがこれを理解してもらえるためにどうするか」を考え、「あなたの理解するレベルで、あなたの興味やモヤモヤしていることを、私があなたに成り代わって話します」というスタンスでいくとうまくいきます。
相手の立場、相手の目的を常に念頭に置いて進めていきましょう。
「私の意見をあなたに理解してもらって、私の意見を通す」ではなくて、「これは私の意見である」というスタンスで話す。そして相手の話を聞きながら、ピラミッドに整理していく。「ですよね。ですよね」と相手の話を肯定しながら聞いていき、「あなたの考えていることを受け止めます」というスタンスが相手に伝わるようにします。
そして、「だったらこのあたりに共通のゴールがありそうですよね」とか、「だったらこうしていくと、双方いいかもしれないですね」という双方のゴールを見つけるための提案をしていきます。
すると「あなた対私」というふうにはならずに「共通の結論」が出しやすくなります。
対話は合意を得るためのもの
結局、対話や議論は、合意(コンセンサス)を得るためにやっているのです。「コンセンサスを得られる」と信じていれば、コンセンサスは大抵得られます。極端な話、対決して「おまえはこうだ」と攻撃的に罵倒しあって勝ち負けを決めようとしていては、永遠にコンセンサスは得られません。逆に「あなたの言うことってこういうことですよね」「意見は違うけど、ここに共通の理解ってあるよね」というポイントを探していけば、うまくいくポイントが見つかりやすいのです。
なお、そもそも「そんなの喋る気ない」と言う相手もいるかもしれません。そんなときは、「鍛えてもらっているんだな」と思い、一生懸命いろいろ考えて頑張ってみましょう。
もちろん、新しいことに関する提案は「やってみないとわからない」部分もあります。
でも、それは相手もわかっています。「100%売れるとは言い切れないから」と提案を引っ込めずに、相手と対話をしていくとよい。そこはあきらめずにいきましょう。
目標を上げて共通の目的を探す
もう1つ、意見が対立したときは、まず目線をぐいっと上げてみることをおすすめします。
営業部と経理部では意見が対立していたとしても、会社の社長まで目線を上げて考えてみるとどうでしょうか。まず利益を出すこと、株主に対して責任を果たすことが大事なはずです。これについては、営業部も経理部も異論はないでしょう。
株主に対してスピーディに数字を開示することも、業績予想を達成することも両方大切だけど、全社で見ると、たとえばすでに数字は達成しているから経理部の方針を優先しましょう、といった共通理解は得られるのではないでしょうか(もちろん逆の結論もあります)。
「いや、社長の視点で考えてみても、どうも折り合いがつかない」
そんなときは、折り合えるポイントを見つけられるところまで、ひたすら上げ続けてみましょう。
極端に言ってしまえば、「人間は幸せに生きていきたい」「世界が平和であってほしい」ということに異論を唱える人はいないと思います。つまり、そのレベルまで話のレイヤーを上げてしまえば、どんな人でも折り合えます。
ただ総論では折り合っていても、それぞれの国であったり、業界や会社、部門ごとの事情が異なるために利害が対立するわけです。まず大きな目的を共有していることを再確認する。それができたら、各論に降りていって、その対立するポイントがどのレイヤー(層)にあるのか、特定する。このプロセスが大切です。
「このプロジェクトの目的は、そもそもこういうことですよね」(確認)
「うん、そうだね」
「そこは僕たち同じで、でも、A案がいいかB案がいいかということで意見が割れていますよね」(確認)
「そうだね」
「営業部の立場だとこう考えますよね。わかります。でも、経理部の立場だと、これをやってしまうとプロジェクトの遂行に支障があると思うんです。なぜかというと……」(対立するポイント)
「そうか、じゃあ、そこを改善するためにはどうしたらいい?」
こんなふうに話ができれば、お互いの理解が進みますし、物事は解決に向かうはずです。