週休3日やワーケーションが話題です。医師の木村知先生は、「コロナ禍以前から、感染症の蔓延を引き起こしかねない一斉休暇や皆勤賞に疑問をもち、『病気をつくる社会』に警鐘を鳴らしてきた身としては、多様な働き方の推進は歓迎すべきことなのですが、表向きはキレイに『多様な働き方』を謳っていながら、その実、雇用主都合の『多様な働かせ方』が加速しかねないのです」と指摘します――。
ハンモックの上でノートパソコンの操作
写真=iStock.com/show999
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ワーケーションで休暇を満喫できるのか

先日、編集者と話しをしていたら「ワーケーション」という言葉が飛び出しました。真顔で「何、それ?」と聞き返すと、「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語で、たとえば今年のゴールデン・ウィークの「飛び石連休」でも「ワーケーション」なら、合間の平日は滞在先のビーチでのんびり仕事を片付けつつ長期休暇を満喫できます、という代物のようです。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行で、にわかに注目を浴びている働き方だそうですが、意外だったのは、編集者が「ワーケーション」をとてもポジティブなものに捉えていたこと。私からすると休暇とはいいながら24時間365日、会社に束縛されている光景しか浮かばず、思わず「それじゃぁ、リ○インのCMだよ!」と言ってしまいました。

キレイな言葉の裏に隠された真意をさがせ

Wikipediaをみると、ワーケーションについて「観光地やリゾート地でテレワーク(リモートワーク)を活用し、働きながら休暇をとる過ごし方。(中略)働き方改革と新型コロナウイルス感染症の流行に伴う『新しい日常』の奨励の一環として位置づけられる」とあり、通勤ラッシュからも解放され、自然のなかで働ける、地域の経済振興にも一役かう、とまぁ、良いことが並んでいます。

その一方で、日本では労働基準法で雇用主側が労働契約締結に際して就労する場所を明示しなければならないことになっているため、自社と無関係の観光地で仕事中に事故にあった場合の労災認定の問題、旅費交通費を雇用主負担とするのか、折半なのかなど、実際に「ワーケーション」なるものが定着するには、現行法との整合性そして制度改変の必要性についての議論がなされなければならないと思います。

ざっと考えただけでも、労災を含めて安全配慮義務が及ぶ範囲を恣意的に狭められる、連絡先を常に雇用主側に明らかにしておく必要が生じる、万が一、機密漏洩などが生じた場合の責任の所在など、一個人には大き過ぎるリスクを背負わされたうえに、休暇を仕事に浸食されるわけですよね。

コンプライアンスがしっかりして、労使が運用条件についてオープンかつ対等に話し合える企業ならまだしも、ブラック企業の経費削減策や責任逃れに利用されたら、たまったものではありません。一見、キレイで聞こえの良い言葉の裏には、必ず何かがあると疑ったほうが良さそうです。