やりたいことをどう探すか

このように、明確な目的もなしに転職するのは決して得策ではありません。大事なのは、まず「自分は何をしたいのか」をしっかり固めること。ここが固まれば、何を勉強すべきかも転職をすべきかどうかもおのずと見えてきます。モヤモヤした思いに揺らぐこともなくなるでしょう。

とはいえ、この女性のように、自分のやりたいことがわからない人も少なくないと思います。これを見つけるには、一つは人と比べないこと。何に幸せややりがいを感じるかは人それぞれです。人気の企業や人気の職種を目指すのではなく、自分に合っていると思える仕事や働き方を探してください。それが今の会社でも見つかりそうなら、転職する必要はないでしょう。

もう一つ、よく言われるのが「キャリアの棚卸し」です。これまで自分が何をやってきたのか、実績や身につけたスキルなどを洗い出し、自分の強みや弱み、仕事の経験から何を学んだのか、どんな仕事・働き方をしている時に満足感を得られるのかなどを明らかにしていくもので、転職を考えたときに最初にやるべき基本のキです。自分を客観的に見つめる手段としては非常に有効です。

銀行のビル
写真=iStock.com/ultramarine5
※写真はイメージです

「棚卸し」が「呪縛」になることも

ただ、棚卸しをする場合は一つ注意してほしいことがあります。

棚卸しは、過去に行ってきたことを見つめ直すものです。そのため、人によっては思考が過去に引っ張られて、「せっかくここまでやってきたから」「我慢してきたから」と思い始め、その思いに縛られて新しいことに挑戦できなくなる可能性があるのです。

例えば、昨年こんな方とお会いしました。「メガバンクに在職中ですが、40代をめがけたリストラも始まり、これから先も経営が厳しそうなので転職を考えています。次の転職先は、これまでの経験を活かしたいので、次も金融しかないのかなと考えています。かといって証券や保険、ノンバンクやファンドは、土地勘がないので不安です。また、小さい会社だと将来どうなるかわからないので、企業規模は大きいほうが合うと考えています……」。これだと、メガバンクの先行きに不安を感じて転職を始めたはずなのに、転職先の選択肢はぐるっと回ってメガバンクに戻ってきてしまいます。

いま不安になっているのは、過去にしてきたことが未来にいい結果をもたらさないリスクを感じたからだったはず。それなのに、過去の経験に執着していては転職する意味がなくなってしまいます。重要なことは、あくまでこれまでやってきたこと(過去)よりも、これからやりたいこと(未来)のはず。棚卸しは大切ですが、マイナス面に働いて「過去の自分の呪縛」にもなりかねないことを、皆さんには知っておいてほしいと思います。

転職という選択肢が頭に浮かんだら、まず考えるべきは「次は何をしたいか」です。これまでの経験や実績も大事なヒントにはなりますが、縛られてはいけません。そして、次にしたいことや目標が見えたら、そこで初めて勉強や資格取得の意義が出てきます。

ご相談いただいた方はまだ36歳ですから、転職先を見つける際のハードルはそれほど高くないかもしれません。しかし、目的もなく安易に転職を繰り返すと、40代になってから悪影響が出てくる恐れがあります。自分が本当にやりたいことは何か、まずはそれを見つけることから始めてほしいと思います。

構成=辻村 洋子

黒田 真行(くろだ・まさゆき)
転職コンサルタント、ルーセントドアーズ代表取締役

1988年、リクルート入社。2006~13年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。2014年ルーセントドアーズを設立、成長企業のための「社長の右腕」次世代リーダー採用支援サービスを開始。35歳からの転職支援サービス「Career Release 40」、ミドル・シニア世代のためのキャリア相談特化型サービス「CanWill」を運営している。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』『35歳からの後悔しない転職ノート』『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』など。