仕事に向き合う気持ちが変わった、顧客からの教え

製品については勉強していたが、相手の顔が見えない電話対応ではとまどうことも度々あった。受話器を取った途端、「女は替われ、男性の担当を出せ」と頭ごなしに言われたり、なぜか急に怒り出す人がいたり、そんなことが続くと「電話に出たくない……」とストレスもつのる。製品に対するクレームがあれば、会社のマイナスイメージにつながるだけに、細心の注意を払って対応する。そんな日々の中で顧客から教えられたことがあった。

「最初は私も回答内容に自信を持ちきれないところがあって、つい不安から『~だと思います』と答えがちでした。すると『そういう言い方はやめた方がいい』とお叱りを受けたのです。それでは聞いている側も安心できない。『わからないことはわからないで良い。後で調べて折り返せばいいんだから』と。曖昧な回答はよけい混乱を招くから、注意した方が良いというご指摘をいただいたのです。そこから自分も仕事と向き合う気持ちが変わったような気がしますね」

年に数回は一般の人やドラッグストアなどの従業員に製品を紹介する機会もあった。そこで説明する際には、いかに相手に正しい情報をわかりやすく伝えられるかを考える。自社の製品をきちんと知ってもらったうえで、その人にとっていちばん合うものを飲んでもらいたいという思いがより強くなったという。

都内で開かれた勉強会で。思いがけずかけられたうれしい言葉

一方、自社の営業体制も強化が進むなか、2016年には新設のプロダクトマネジメント室へ配属された。医学関係の学会で展示をしたり、各地の医師を訪ねたりする機会が増え、日本全国を飛び回る。製薬会社には医療従事者に医薬品の有効性や安全性などに関する情報を伝えるMRがいて、彼らをサポートする資料も作ってきた。

さらに山下さんは現在の学術情報グループへ異動。営業のバックアップをする販促資材の作成のほか、医師や薬剤師向けのセミナーで講師を務めるようになる。

なかでも心に残るのは、都内のあるニュータウンで開かれた勉強会だった。高齢者の住民向けに「腸内フローラ」について話してほしいと頼まれたのだ。そもそも「腸内フローラ」とは何か、ここで少し説明してもらおう。

「私たちの腸内には1000種、100兆個以上の細菌が生息しています。顕微鏡でお腹の中を覗くと、まるで植物が群生している『お花畑(フローラ)』のように見えることから、『腸内フローラ』とも呼ばれるようになりました。これらの様々な細菌がバランスをとりながら腸内環境を良い状態に整えてくれます。人によって腸内環境は違い、様々な病気に関わりがあることもわかってきているのです」

海外での研究もまじえ、興味をもってもらえるように話した山下さん。講演後、会場の人たちに感想を聞き、その一人から「多くの人がここで話してくれたけれど、あなたの説明がいちばんわかりやすかった」と言われる。思いがけない誉め言葉が嬉しく、自信にもつながったという。