プーチン大統領は「ゾルゲ」を使って政権延命を図りつつある
ロシアでのゾルゲ・ブームは、プーチン政権が操る「官製」の要素が少なくない。
21年目に入ったプーチン政権は、2014年のウクライナ危機後、欧米諸国から経済制裁を受け、封じ込めへの危機感がある。ロシアの軍事専門家の間では、北大西洋条約機構(NATO)への先制攻撃論や予防戦争論といった物騒な議論が出てきた。
政権基盤は強固ながら、知識層の若者は長期政権の閉塞感や経済不振、社会の沈滞ムードへの不満から、反プーチン志向が強く、ブロガーで反プーチンのナワリヌイ氏がカリスマ的な人気を持つ。
プーチン政権は、反露を掲げるバイデン米新政権がナワリヌイ氏を擁護し、軍事圧力に加えて情報戦や経済戦、秘密工作員を利用して混乱を高める「ハイブリッド戦争」を仕掛けてくる――といった懸念が強いようだ。
ロシアにとって、時代はゾルゲが暗躍した第二次大戦前夜に似ており、命がけで祖国のために情報工作を行った愛国者のゾルゲを賛美することで、愛国主義を鼓舞する狙いがうかがえる。
欧米の策謀を実体以上に恐れるプーチン政権は、「ゾルゲ」を使って政権延命を図りつつある。日本にとっては、「ゾルゲ」が日露交流に利用可能かもしれない。