18年にわたって、連続増収を更新する武蔵野。かつては漆黒のブラック企業と自認するほど離職率の高い会社だったが、採用と人材育成の取り組みで大幅に改善。「上司が嫌」「人間関係が嫌」と言って退職を希望する社員への対応策とは――。

※本稿は、小山 昇『社長、採用と即戦力の育成はこうしなさい!』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

武蔵野は、「上司が嫌」になるケースが多い

中には、「辞めよう」と思いながら、踏みとどまった社員が大勢います。会社を辞めるおもな理由は、「仕事が嫌で辞める」「上司が嫌で辞める」「会社が嫌で辞める」の3つです。

小山 昇『社長、採用と即戦力の育成はこうしなさい!』(プレジデント社)
小山 昇『社長、採用と即戦力の育成はこうしなさい!』(プレジデント社)

取締役の佐藤義昭は、「わが社は、『上司が嫌』になるケースが多い」と述べています。

「『辞めたい』という意思表示をしてきた社員と話をするとき、私は最初に、『小山さんのことを嫌いになった?』と聞きます。すると社員は100%。『いや、そんなことはないです』と答えます。次に、『じゃあ、会社が嫌いになった?』と尋ねます。会社が嫌いになるのは『会社のルールを知らされてない』からです。武蔵野はルールが明確で方針共有も徹底しているから、『会社が嫌』になる社員もそれほど多くはありません。

もっとも多いのは、『上司が嫌』、あるいは『社内の人間関係が嫌』になるケースです。人間関係に原因がある場合は、人事異動をする、上司を替える、上司の意識を変えるなどして、離職を防ぎます」(佐藤義昭)

部下の本音を知って涙する上司

佐藤はさらに続けます。

「村岡邦雄課長が、かつて私(当時部長)の下で店長をしていたときのことです。村岡の部下数名から『今日、飲み会をやるので、佐藤さんも来てください』と誘われ、顔を出すことにしました。私は当然、店長の村岡も参加していると思っていました。ところが、村岡は呼ばれていなかったのです。

『店長の村岡がいないのはおかしいな』といぶかしく思っていると、支店のメンバーのひとりがこんなことを言ってきました。『佐藤さん、乾杯の前にお話を聞いていただけませんか? 私たちは、村岡さんが嫌いです』。この飲み会は、村岡に対する不満を私に伝えるために催されたものだった。

私はそのときはじめて、『村岡が部下からどのように思われていたのか』『村岡がなぜ嫌われているのか』を知りました。

後日、村岡を東小金井駅前のデニーズに呼び出して、そのことを伝えました。村岡は、『嫌われている』とはまったく思っていなかったようです。部下の本音を知った村岡は、涙を流して反省しました。

その後村岡は、『部下と現場同向をする』『ランチを一緒に食べる』『サシ飲みをする』『一緒に環境整備をする』など、時間と場所を部下と共有しはじめた。その結果、部下の気持ちにも寄り添えるようになって、大量離職を防ぐことができた」(佐藤義昭)