若者はなぜ新橋に「通」を感じるのか

【安田】おじさんの街っていう部分を「渋い」とか「通」だと勘違いしている若者が多いのかな。おじさんが行くような、おしゃれでもキレイでもない店を好む自分かっこいい、みたいな。

【高杉】新橋のお店には、若者にも手が届くぐらい安いところも多いから、そこも魅力なのかも。でも、意外な街のおいしいお店を知っていると通っぽいっていう意識は、皆にあるような気がします。あと、他の若者が行くようなエリアじゃなくて、わざわざおじさんエリアの店を探索するのが「面白い人」みたいな感覚もありそうです。

新橋駅前を歩く男性(2012年10月)
写真=iStock.com/aluxum
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【原田】本当の通を目指しているわけじゃなくて、自分が持っているバリエーションを増やしたいっていうことかな。渋谷だけじゃなくて新橋も知っているぞっていうような。自己ブランディングに近いものがありそうだね。

「俺は新橋に行ってる」と言える自分

【工藤】そうだと思います。若者からすると、渋谷や新宿に行く人って普通なんですよ。その普通から少しズレて、「俺は新橋に行ってる」って言える自分が大事なのかも。他の人と差別化できるし。おじさんから見たら新橋って何てことのない街かもしれないけど、そういう若者にとっては特別感がある場所なんだと思います。

【鈴木】でもそういう人も、本当に汚い店や高い店には行かないですよね。おじさんが多すぎる店にも多分行かない。新橋なんだけど少し下北沢風な店とか、客層がサラリーマンでも20代半ばぐらいとか、そんな店が好まれると思います。

【原田】なるほど。獺祭もそうだけど、今はホルモンや餃子などの「おじフード」も若者の間で人気だよね。でも、昔ながらの店に行くんじゃなくて、若者向けにキレイに改装した店に行く人が多い。おじドリンクやおじフードを楽しむ、新橋を楽しむと言っても、あまりにディープなところは避けたいのかなと思ったよ。

この冬にはやった食べ物や飲み物には、さまざまな特徴があったように思います。外出自粛の影響を先読みした商品もあれば、PR戦略が成功した商品、また人と差別化したい若者心理をうまくつかんだものもありました。差別化という点では、新橋に「通」を感じる若者も出始めているようですが、あくまで入りやすい店だけを選んでいる様子。おじさんっぽい食べ物や飲み物、街などが注目されていると言っても、店づくりや商品づくりをする際には、若者向けに別途アレンジすることが必要だと思います。

構成=辻村 洋子

原田 曜平(はらだ・ようへい)
マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授

1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2022年より芝浦工業大学教授に就任。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)、『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)などがある。