異業種交流会やセミナーでは得られないもの

プロボノは、本業を持つ人たちが業務上のスキルを生かして取り組むもの。その点では副業に似た部分もあるが、ボランティアであるところが大きく違う。参加者は収入を得るためではなく、他のものを得るために集まる。その中には自らの成長や刺激を得るために参加する人もいる。

こうした動機は平野さんも同じ。ただ、成長や刺激のためなら、異業種交流会や外部セミナーなどに参加するという手もある。これらは1日で終わるため、仕事に育児にと忙しい人にとってはそのほうが手軽だろう。平野さんは、なぜわざわざ、数カ月にわたって活動するプロボノを選んだのだろうか。

「交流会やセミナーでは、背景も考え方も違う人たちと一緒に何かをつくり上げる経験はできないと思うんです。プロボノでは、成果を出さなくてはならないので、自然に議論も深いものになり、突っ込んだやり取りができます。自主的に参加している人ばかりなので、考え方は違っても目標やマインドは同じ。一緒に違いを乗り越えていこうという熱意が皆にありますね」

「社内のプロジェクトだと、『上司に言われたから仕方なく参加した』という人がいるかもしれませんが、プロボノにはそういう人はいません」。忙しい日常の中でわざわざ時間をつくり、自主的に参加しているからこそ得るものも大きいのだろう。

平野さんも、参加中は確かに忙しくはなったそう。ただ、チームメンバーとのやりとりはほとんどがメールやSNSで、平日の夜や土日を使えば無理なくできる範囲だったと振り返る。1回目のプロジェクトでは、半年の活動期間のうち対面で集まったのは5回ほど。それでも、メンバーとはその後も定期的に一緒に飲みに行くなど、交流が続いているという。

今度は世の中に還元したい

またプロボノに参加したいかどうかをたずねると、「もちろん」と即答。次は貧困や教育など、社会的な問題をテーマとしたプロジェクトに参加したいと力を込める。

「これまでは、仕事に役立つものをインプットしたいと思って参加していましたが、今はプロボノを通して世の中に何か還元したい、社会にインパクトを与えたいという思いが強くなっています。この意識の変化はプロボノのおかげかも。また次も、2回の経験で得たものを生かして取り組みたいと思います」

文=辻村洋子

平野 麻絵(ひらの・あさえ)
会社員

1980年生まれ。大学卒業後、都内の人材・情報分野の大手企業に入社。定期刊行物の業務設計、企画統括を経て、現在は社内システム部署マネジャー。2015年から2019年にかけて、認定NPO法人「サービスグラント」を通じたプロボノ活動に2回参加。家族は夫と息子2人(8歳・4歳)。