プロボノのプロジェクトで「練習」

以前から、社内研修やビジネススクールなどに積極的に参加していた平野さん。壁を乗り越えるために、普段の仕事から外に目を向けたのは、自然な流れだった。

「一度外の世界に出てみれば、自分に足りないのが知識、経験、スキルのうちどれなのかがわかるだろうと思ったんです。それに、仕事と家事育児以外の場もほしかった。そんな時に、プロボノ希望者と支援を求めている団体をマッチングするNPO『サービスグラント』を見つけ、『これだ!』と思ってすぐ申し込みました」

この時、平野さんが希望した役割は、プロボノチームと支援先の団体の間に入り、約束通りの成果を出せるようにプロジェクトの方向性を軌道修正したり、品質を担保するといった調整役を担うものだった。

通常この「アカウントディレクター」という役割は、プロボノ経験者や管理職経験者が務める役割なので、平野さんの経歴では少し足りない。しかし、「説明を聞くと、私が業務の中で悩んでいた企画統括の役割ととても近かったんです」。年上の組織長たちとしっかり話せるようになりたいという思いから、「ちょっと背伸びして」ダメ元で立候補したという。

求められるスキルは同じだが、仕事よりも関わる人の数も規模も小さい。サービスグラント事務局との面談では、「失礼かもしれませんが、仕事の練習になると思うのでやりたいです」と伝えたという。「この役割をまっとうできたら、『スキルはあるけれど、経験や知識が足りない』ことになる。自分に足りないものがどれか、見えてくるはずだと思いました。それに、この先仕事の中で直面しそうなことを、ここで予習しておきたいという思いもありました」

平野さんの人柄と意欲が評価されたのだろう。事務局との面談で熱意を伝えたところ、その熱意を歓迎するかたちですんなりとOKが出て、プロジェクトに参加することになった。

プロジェクトに参加するメンバーの予定がなかなか合わず、2回に分けてキックオフミーティングを実施した。後列左が平野さん
写真=サービスグラント提供
プロジェクトに参加するメンバーの予定がなかなか合わず、2回に分けてキックオフミーティングを実施した。後列左が平野さん

年齢も職業もバラバラの6人

「プロボノに参加するのは初めてで、本当に役に立てるか自信がなかったので、人の命や健康に直接関わらないテーマのものが良いと思って」と、選んだのは、約半年にわたる「江戸糸あやつり人形結城座」プロジェクトだった。江戸糸あやつり人形の公演や普及・継承に取り組んでいる団体で、会員増や芸能文化の活性化のためプロボノの支援を求めていた。

2015年3月、プロジェクトは男女3名ずつ、計6人のプロボノ希望者が集まってスタート。年齢は20代から50代まで、勤務先も化学メーカーや製薬会社から化粧品、時代劇番組の制作担当、外資コンサルと幅広く、「あまりにバラバラすぎて逆にワクワクした」と平野さん。そこから、会社ではまず出会えない人たち、視点も考え方もまったく違う人たちとの協働が始まった。

メンバーと知恵を出し合い、結城座の今後の戦略を練り上げていく過程はとても楽しかったそう。ただ、およそ半年の活動期間中には、メンバーの1人が欠けるという予想外の出来事にも見舞われた。大変なこともあったが、結果的には自身の経験値として、それを補ってあり余るほどの収穫を得たという。

チームミーティング後、恒例となっていた飲み会。右端が平野さん
写真=サービスグラント提供
チームミーティング後、恒例となっていた飲み会。右端が平野さん