女性が一度キャリアを中断すると戻りにくい日本
金銭面も無視できない問題だ。卵子凍結や不妊治療については、保険のきかない自由診療なので、金額は病院によって幅があるが、診察・投薬・採卵・卵子の凍結保存という一連の処置で、数十万円から100万円以上にのぼるケースもあるという。「決して安くはないですね」と竹内さんも本音を吐露する。
政府は2022年4月から不妊治療の保険適用を進める意向だが、そこまで待っていたら、それまでに35歳を過ぎる女性はより妊娠確率が下がってしまう。それに、保険適用後も卵子凍結は基本的に対象外。今しかできないことと将来的な出産の二者択一に迫られる女性の助けにはならない。女性アスリートはもちろんのこと、将来子どもがほしいと考えている未婚の女性や、仕事や病気などさまざまな理由で卵子凍結を希望する女性にとっては、本当に悩ましい状況というしかない。
「日本では不妊治療の保険適用や助成金拡充の話が出ていますが、そもそもなぜ高齢出産が多いかというと、日本では出産や子育てをしながら仕事を続けづらいからだと思います。女性がいったんキャリアを中断してしまうと、なかなか元の場所に戻れませんよね」
「でも私が長く過ごした欧州では、そういう制度が整っているんです。長期間休んでから仕事や競技にカムバックした女性はたくさんいますし、男性も子育てをするために仕事を休む権利が保障されている。それに社会福祉も手厚い。例えばスイスでは税金と社会保障のバランスを取りながら、より子育てしやすい環境の整備について考えられているな、と感じます」
卵子凍結も1つの選択肢
「自分が今回、卵子凍結に踏み切りそれを公表したことで、『世の中が変わってほしい』とか『日本のために一石を投じられればいい』といった大胆なことは何も考えていません。でも、卵子凍結も1つの選択肢であることを知っているか知らないかは、女性がキャリアを考えるうえで大きな違いを生むと思うんです。それを知ってもらえたらいいですよね。自分自身が後悔しない人生を送るために一生懸命やっていることが、ほかの人の力になるのなら、私自身はうれしく感じます」