痔は、「誰にも知られずコッソリ治したい」と、市販薬を探す病気の一つに挙げられるでしょう。市販薬の販売を担当してきた薬剤師の久里建人さんは「塗り薬が当たり前と考えられてきた常識を覆し『塗らずに治す薬』としてヒットした商品がある」といいます――。

※本稿は、久里建人『その病気、市販薬で治せます』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

痔の痛みのため、お尻のあたりに手をやる女性
写真=iStock.com/Aleksej Sarifulin
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「塗らずに治す薬」でヒット

読者の皆さんは痔の薬を使った経験はあるでしょうか。私はこれまでの人生で一度だけお世話になったことがあります。市販の塗り薬を購入し、恐る恐る塗ってみたところ、患部に触れた指先になんともいえない感触が残りました。あのこそばゆいような、恥じらいの感触……。形容しがたく、できればもう塗りたくないと思っています。

「痔は塗り薬で治すものだ」と考えている方は多いことでしょう。ところが、そのような常識を覆し、“塗らずに治す薬”を発売してヒットを飛ばした商品があります。発売した2017年度の売上は1.5億円、さらに翌年度は7億円にまで跳ね上がった「ヘモリンド舌下錠ぜっかじょう」です。

「ヘモリンド舌下錠」は、動物の血管から作られた【静脈血管そうエキス】が、血流を改善したり炎症を抑えたりする効果のある薬です。この薬は飲み方に特徴があり、「舌下錠」という名前が指すように、舌の下に入れて5~10分かけて自然に溶かします。舌の下の粘膜から吸収させると、薬を分解する肝臓を通過する前に薬が効くようになるのです。飲み込んでしまうと、効果が弱まってしまうので注意です(逆に、舌下錠ではない薬を舌下で使うのは危険なのでやめてください)。

いぼ痔と切れ痔は市販薬で対処できる

「ヘモリンド」は、実は1963年に「日本初の痔用舌下錠」として発売した非常に古い薬なのですが、最近になってパッケージをわかりやすく変更したことでヒットにつながりました。【静脈血管叢エキス】の主な副作用には胃の不快感などの胃腸障害がありますが、頻度は特に高くはありませんので、比較的安心して使える薬と言えます。

ただし、「ヘモリンド」は、いぼ痔専用の薬です。痔にはいくつかのタイプがあります。本来受診が必要なタイプの痔に対して誤った市販薬を使ってしまったり、いつの間にか痔がひどくなって手術が必要になったりすることがないように、ここでは痔の種類について簡単に触れておきたいと思います。

痔には「いぼ痔」「切れ痔」「痔ろう」の3タイプがあります。このうち市販薬で対処できるのは、いぼ痔と切れ痔です。いぼ痔はいぼが出来ている状態、切れ痔は切れている状態、痔ろうはんでしまっている状態です。「痔ろう」は必ず受診が必要なタイプなのですが、「痔ろう」という名前の世間の認知率はそのほかの2タイプの半分ほどしかないという調査がありますので、ぜひ知っておいていただきたいと思います。