塗り薬はどう選ぶべきか

大ヒットした「ヘモリンド」舌下錠ですが、使えるのはいぼ痔だけということもあり、痔の薬の主流は依然として塗り薬です。塗り薬選びのポイントは「形」と「成分」にあります。

いぼ痔には、お尻の内側にできる「内痔」と外側にできる「外痔」があります。外にできた痔には「軟膏タイプ」が塗れますが、内側にできた痔には指が届きませんので、「座薬タイプ」を使います。また、内側にも外側にも使える便利な「注入軟膏」というタイプもあります。

痔の塗り薬の成分は、大きく2つに分けられます。炎症を鎮めるステロイド成分が入っているものと、そうでないものです。

代表的な薬である「ボラギノール」を例に挙げると、箱が緑のボラギノールがステロイドなしの「ボラギノールM」。黄色がステロイドありの「ボラギノールA」です。ステロイドなしの方にも炎症を鎮める成分として【グリチルレチン酸】は入っていますが、一般的にはステロイドの方が効き目が優れると考えられています。いぼ痔の炎症が強く、痛みがつらい場合は、ステロイドを選んだほうが良いでしょう。

ただし、ステロイドには免疫を抑制する作用があります。お客さんの中には、病院で免疫抑制系の薬を処方されている人もいて、「市販薬を購入するときはステロイドが入っていないものを選ぶように言われている」と相談してきた方も過去にいました。また、『肛門疾患診療ガイドライン2014年版』では、ステロイドはまれにステロイド性皮膚炎や肛門周囲白癬症を引き起こす点が指摘されていますので、自己判断での長期使用は避けるべきでしょう。

薬局の棚
写真=iStock.com/katleho Seisa
※写真はイメージです

便秘の治療も考える

また、切れ痔タイプには便秘症の人が比較的多いとされます。そういった方は、痔の薬と一緒に便秘薬も使うという手があります。効き目が穏やかなマグネシウム製剤など、いろいろ種類はありますので、自分で選ぶ前に資格者に相談した方が良いでしょう。

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「ヘモリンド」のように“塗らずに治せる”痔の飲み薬は他にもあります。漢方薬で痔の薬といえば、「乙字湯(おつじとう)」です。乙字湯は血流改善、抗炎症効果があるだけではなく、大黄(だいおう)という下剤成分が入っているので、便を柔らかくしてお尻への負担を減らすことができる、便秘症状の人に適した薬です。

「ボラギノール」ブランドには「内服ボラギノールEP」という飲み薬があります。こちらは血流改善や抗炎症作用のある生薬を含んでいますが、乙字湯とは異なり大黄は入っていませんので、お腹が緩くなる心配は少ないでしょう。乙字湯と「内服ボラギノールEP」は、いぼ痔にも切れ痔にも使えます。

痔を何度も繰り返してしまうという相談はよくありますので、治すには生活習慣なども一緒に改善する必要があります。店頭で相談するときは、症状に合った製品を聞くとともに、飲み薬がいいのか、塗り薬がいいのかなどの希望も伝えると良いでしょう。

久里 建人(くり・けんと)
薬剤師

2005年に薬剤師免許所得後、医療用医薬品情報に関わる業務等を経て、市販薬の店舗責任者や新規事業関連のマネージャーを務める。ブログ「ドラッグストアとジャーナリズム」やSNSを通じて一般消費者向けに情報を発信し、講演、寄稿、書籍監修等も行う。