繰り返すと「鈍感化」が起きる

3つ目の理由は、過剰なニュース報道とキャンペーンです。国民が、コロナに慣れてしまったのには、マスコミの責任もあります。とにかく、昨年からずっと連日のように、コロナ、コロナ、とコロナ関連の報道がなされ、「自粛せよ」というキャンペーンが繰り返されてきました。「自粛」という言葉を何度、耳にしたかわからないほどです。

米国パデュー大学のヒュン・イ・チョウによると、健康増進キャンペーンは、時として「意図せざる効果」をもたらす、と分析しています。

健康増進のキャンペーンは、たしかに効果はあるのです。しかし、それは最初だけ。

キャンペーンは、くり返せばくり返すほど、「鈍感化」が起きる、とチョウは指摘しています。つまり、キャンペーンが次第に「効かなくなってくる」のです。痛み止めの麻酔を打っていると、そのうちに薬の量を増やさないと効かなくなってくるのと似ています。これが「鈍感化」と呼ばれる現象です。

2020年4月の緊急事態宣言以降、何度も自粛の呼びかけがくり返された結果、鈍感化が起きてしまい、呼びかけの効果もなくなってきてしまいました。

心のメカニズムが理解できれば行動は変えられる

以上、2度目の緊急事態宣言を出しても、そんなに効果が見られないという点について、心理学的に考えられる理由を3つご紹介してきました。

といっても、「だから、自粛しなくともよい」と言っているわけではありません。ついつい気が緩んでしまう、その心のメカニズムをよく理解したうえで、自分の行動を振り返り、今とるべき行動を考えてほしいのです。大切な自分の生命を守るためにも、大切な家族の生命を守るためにも、もうしばらくは「自粛」することにしましょう。

(参考)Cho, H., & Salmon, C. T. 2007 Unintended effect of health communication campaigns. Journal of Communication ,57, 293-317.

内藤 誼人(ないとう・よしひと)
心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長

慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。趣味は釣りとガーデニング。著書に『いちいち気にしない心が手に入る本:何があっても「受け流せる」心理学』(三笠書房)、『「人たらし」のブラック心理術』(大和書房)、『世界最先端の研究が教える新事実心理学BEST100』(総合法令出版)、『気にしない習慣 よけいな気疲れが消えていく61のヒント』(明日香出版社)、『羨んだり、妬んだりしなくてよくなる アドラー心理の言葉』(ぱる出版)など多数。その数は250冊を超える。