適応力の高さが裏目に出た

人間は、そんなに長いこと、リスクを感じ続けていられるわけではありません。そのうちに慣れてしまうのです。それが人間の適応力の高さだとは思うのですが、それが裏目に出てしまっているのです。

「コロナなんて、そんなにおびえる必要はないよ」と思ってしまっている人が多くなってきているのですから、2度目の緊急事態宣言が4月ほどの効果を見せることができないのも当然といえるでしょう。

(参考)Lima, M. L. 2004 On the influence of risk perception on mental health: Living near an incinerator. Journal of Environmental Psychology ,24, 71-84.

「自分だけは大丈夫」の罠

2つ目の理由は、「自分だけは大丈夫」という、根拠のない思い込みです。私たちは、なぜかはわかりませんが、「他の人はコロナに感染するかもしれないけれど、自分は大丈夫」と、根拠もなく信じ込んでいるところがあります。読者のみなさんもそうなのではないでしょうか。

米国ラトガース大学のネイル・ウェインスタインは、ニュージャージー州ニューブランズウィックの住民296名に、36の健康リスクについて評価してもらったことがあります。

その結果、自分だけは麻薬中毒にならず、アルコール中毒にもならず、喘息にもならず、ガンにも糖尿病にもならず、関節炎に悩まされることもない、と答えることがわかりました。

私たちは、「自分だけは大丈夫」と楽観的に考えやすいのです。私たちの心は、本人が苦しまないように機能するというメカニズムがあります。

ポジティブな姿勢を示す若い日本人女性
写真=iStock.com/Kavuto
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リスクを認知していると、私たちは悩み、苦しみます。そうならないように、私たちの心は、楽観的に考えるように仕向けるのです。そのため、「自分だけはコロナにならない」と、根拠もなく思い込んでしまうのです。そう思っていたほうが、本人はハッピーに生活できるわけですから、そういう心のメカニズムが必ずしも悪い、というわけではありません。

しかし、そういうメカニズムが裏目に出てしまうと、やはり「気の緩み」になります。2度目の緊急事態宣言でも、なかなか人出が減っていかないのは、もともと人間には楽観的に物事を考える傾向があって、「自分はコロナにならない」「なったとしても、そんなに重症化しない」と思い込んでいるためであると心理学的には分析できます。

(参考)Weinstein, N. D. 1987 Unrealistic optimism about susceptibility to health problems: Conclusions from a community-wide sample. Journal of Behavioral Medicine ,10, 481-500.