一度立ち止まって。アメリカのロングトレイルで知ったキャンプの魅力
半年間の活動が、自分の生き方を見つめ直すきっかけになったという小島さん。再び日本へ戻ったときには心に秘めた決意があった。
当時、ユニクロは全国800店舗ほどあり、顧客満足度を計るキャンペーンを実施。そこで全国一を目指そうと思い、半年間で成果を出すことに集中する。部下と一丸となって一位を獲得、そこまでやり切ったところで心置きなく退職を決めたという。
「あの時はまだ転職先も何も考えていなかったんです。別の仕事をするにしても、前職の価値観のまま飛び込んでしまうと失敗するだろうなと感じていたので、もう一度フラットな自分に戻りたくて。そのためには立ち止まってみる空白の時間が必要でしたね」
ずっと仕事に邁進してきた小島さんが初めて立ち止まった空白の時間。そこでチャレンジしたのは、アメリカのロングトレイルを歩く旅だった。ロングトレイルとは「歩く旅」を楽しむために造られた道のこと。山頂を目指す登山とは異なり、登山道やハイキング道などを歩きながら、その土地の自然や歴史、文化にふれる旅である。
交際していた彼がアウトドアメーカーに勤めており、アメリカを旅すると聞いて、一緒に行こうと思い立つ。二人で歩いた「パシフィックレストトレイル」は、メキシコ国境を出発し、カリフォルニア州、オレ州、ワシントン州を経て、カナダ国境までを結ぶ4260キロのトレイル。旅の途中ではアウトドアの楽しみ方も様々あることを知った。
「ゆっくり時間を過ごすだけのキャンプをしている人たちもいて、『君たちは一日30キロも歩いているの?』と聞かれ、『僕らは5キロだけ歩いて、ここで焚火をして帰るんだよ』と。そんな過ごし方もいいなと思ったんです」
半年近くにわたる旅が終わると、帰りにポートランドでアウトドアショップをめぐった。そこでキャンプでずっと使っていた調理器具が「スノーピーク」の製品と知った。小島さんはアメリカ製かと思い込んでいたが、彼に聞くと「日本の新潟のメーカーだよ」と言われて驚く。「スノーピーク」との出合いだった。
「オートキャンプという文化が日本にあることを知って、私が求めている自然との関わり方だと思ったのです。帰国後、スノーピークのカタログなどをいろいろ見ていたら、『境界線は自分の中にしかない』という一文がありました。私もバングラディシュやアメリカの旅では国境を越える経験をしましたし、トレイルを歩いているといろんな境界線はあっても、そこを行き来することで、自然と人、人と人がつながっていることがわかります。だから、『境界線』とは自分の中だけのものでしかないという言葉が心に響いたのです」
入社後すぐに店長に。個人の主体性を大切にするマネジメントへ
自然と人、人と人をつなぐオートキャンプのスタイルを提案する「スノーピーク」に共感した小島さんは、中途採用に応募して入社が決まる。2015年秋、30歳での転職だった。
半年後に大阪で直営店のオープンが決まっており、店長を任される。ユニクロでの経験を見込まれてのことだが、接客の仕方も新たなチャレンジになる。かつては大量に売場に積み上げて、価格も手頃でベーシックな服を販売するスタイルだったが、スノーピークは商品価格が高く、様々な機能も備わっている。
「ちゃんと伝えないとその良さが伝わらない。けれど、伝わるほどにより愛着がわくような商品です。それだけにお客さまとしっかり向き合って、その方がモノを買うことでどういう体験ができて、幸せになれるかということまでお伝えしたい。その先の人生の価値まで思いをはせるようになりました」
部下と向き合う姿勢も変わったという。ユニクロ時代は売り上げの目標にこだわり、会社の価値観を押し付けがちだったが、スノーピークでは個人の主体性を大切にする。一緒に働く仲間の生活も尊重しながら、部下を育てていくようになった。