ますます運動量が減っている

身体を動かすとストレスへの耐性がつくし、現代では貴重品になった集中力を与えてくれるから、デジタルな時代を生き抜く助けにもなる。

アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(新潮新書)
アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(新潮新書)

ただ問題は、運動量がどんどん減っていることだ。今でも狩猟採集民として原始的な農耕社会に暮らす部族を調査すると、私たちの祖先は毎日1万4000歩から1万8000歩、歩いていたと思われる。今の私たちは1日5000歩にも満たない。そしてその数字は10年ごとに減っている。

スウェーデン人の平均的な体力は90年代から11%下がり、現在は大人の半数近くが、健康に害が及ぶほど身体のコンディションが悪い。特に悪いのは若い人たちだ。14歳の運動量は2000年頃と比べると女子で24%、男子で30%減っている。人類史上、これほど急速に減少したことはなかったはずだ。14歳の運動量が減ったいちばんの理由は? スクリーンばかり見ているせいだ。

すべての運動に効果がある

では、大人も子供もどのくらい、どんなふうに運動をすれば、脳がちゃんと働くのだろうか。その問いの答えを探すため、イスラエルの研究者たちが5000件に上る研究結果を調べた。なんという作業量だろうか。どれも、運動が知能にどんな影響を与えるかという研究だ。その中から、優れた研究を100件弱選び出し、それでわかったのは──なんと、あらゆる種類の運動が知能によい効果を与えるということだ。散歩、ヨガ、ランニング、筋トレ──どれも効果があった。運動によっていちばん改善されたのは、知能的な処理速度だ。運動をしていると頭の回転も速くなるというわけだ。

いちばんいいのは、6カ月間に最低52時間身体を動かすことだ。これは週に2時間という計算になり、さらに分割すると、例えば45分が3回になる。それより長く運動しても、さらに効果があるわけではないようだ。もちろん身体のコンディションはよくなるが。脳だけの話をすると、週に2時間あたりのどこかで効果に限界がくる。言い換えれば、マラソンまではする必要なしということだ。

脳の観点から見ると、心拍数は上げないより上げた方がいい。と言っても、速足で歩くだけでも驚くほどの効果がある。できることをやって、心拍数が上がればなおよしというわけだ。