クルマを部屋として使う若者たち

近年、よく言われる「若者のクルマ離れ」は複数のデータからも明らか。そこでKINTO以外にも、手軽さや経済効率を軸に、クルマのサブスクサービスに乗り出す企業が相次いでいます。先のホンダが展開する「Honda マンスリーオーナー」や「NOREL」(IDOM CaaS Technology)などは、その一例です。

そんななかで、どうすれば競合との差異化が図れ、よりターゲットに響くコンセプトを打ち出せるのでしょうか。経営学者で「マネジメントの発明者」とも呼ばれるピーター・ドラッカーは、次のような名言を遺しています。

――「顧客を想像してはならない。顧客に直接聞かなければならない」
「事業の目的は、顧客を創造することである」――

そう、「想像」ではなく「傾聴」と「創造」こそが、顧客と事業を取り巻く重要なキーワード。実はKINTOの藁谷さんも、これを実践し始めているようです。

先日も、若者の実態を知ろうと、あるドライブインシアターに「視察」に行ったとのこと。若者向けのアパレルが参画する映画イベントで、「予想以上に若い世代が多い印象で、わナンバー(レンタカー)も目立った」そうです。

また、彼らは映画が始まる直前まで、まるで自宅にいるかのように、車内という安全空間で、自由に会話やトランプなどを楽しんでいた。改めて、クルマのさらなる存在意義を感じたと藁谷さんはいいます。

藁谷さんはまた、Z世代にとってのクルマを「自己拡張のツール」だと位置づけます。

「彼らは決して、守りに腐心しているわけではない。インタビュー調査でも、多くはクルマがあれば活動範囲が広がり、貴重な体験ができると気付いているように感じます」

所有までは踏み出せない

ただその冒険心は、持ち前の賢さ、すなわち「3年先のことは分からない」といった堅実性とのバランスにおいて発揮されるので、クルマの所有にまで踏み出せずにいる若者も多いようだ、とのこと。

そんな若者たちに、「KINTOを利用すれば、より安心・自由な発想でクルマを便利に使えますよ」とのメッセージを送りたいと、藁谷さん。その熱意の先には、豊田章男社長が命名した「筋斗雲(自由自在に操れるクルマ)」に象徴される、事業の向かうべき未来像が、しっかりと見えているようです。

牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)
マーケティングライター、世代・トレンド評論家、インフィニティ代表

立教大学大学院(MBA)客員教授。同志社大学・ビッグデータ解析研究会メンバー。内閣府・経済財政諮問会議 政策コメンテーター。著書に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』『独身王子に聞け!』(ともに日本経済新聞出版社)、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)、『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)ほか多数。これらを機に数々の流行語を広める。NHK総合『サタデーウオッチ9』ほか、テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。