オンライン活用が進まない学校があるのはなぜか

公立学校の教育は、もちろん国が基準を定めて方向性を示しますが、それをどのように実施するかは、各自治体の教育委員会や学校の判断に任せられる部分が非常に大きい。もちろん、自治体や学校によって地域性もありますし、家庭や子どもたちのニーズも異なりますから、それがプラスに機能する部分もたくさんあります。

ただ、コロナ禍でのオンライン活用については、それが地域や学校による取り組みのバラつきにつながった部分があるように思います。文科省がオンライン推進の旗振りをしても、どのように実行されるかは、各自治体や学校によって異なるわけです。

私の場合は幸い、非常に理解のある校長や教育委員会に恵まれて、Zoomによる朝の会なども早い段階で実施することができました。教育委員会では、私のクラスの取り組みを他の学校と共有してくれたりもしています。ただ、すべての学校・自治体がそうであるとは限りません。

オンラインの朝の会や授業などは、本来、学校単位の判断で実施できるはずですが、実際は校長の理解があっても市区町村の教育委員会の許可がないと難しいのです。また、「隣の学校がやっているのに、なぜうちの学校ではやらないんだ」という保護者からの苦情が入ることもあるため、ほかの学校がやっていないことを率先してやりにくいという雰囲気もあります。よく「横並び意識が強い」と言われるゆえんです。

文科省から「一律でなくてもよい」と言われてはいましたが、それでも「接続環境がない家庭がある」「一律でないのは不公平ではないか」という声は教育関係者だけでなく保護者の間でも根強い。こうした認識が壁になって、オンライン化を推進しようと思ってもできなかった学校・教員は多かったのではないかと思います。

緊急事態の中で、新しい取り組みにチャレンジできたことは大きな収穫ですが、オンライン化することだけが教育の目標ではありません。誰もが「教育とはこういうもの」という固定観念を捨て、より良い教育をするための可能性を広げるツールとして活用できればと思っています。

構成=太田美由紀

庄子 寛之(しょうじ・ひろゆき)
ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター 研究員

大学院で臨床心理学科を修了。道徳教育や人を動かす心理を専門とし、東京都内の公立小学校に約20年勤務し、「先生の先生」として全国各地で講演も行った。学級担任として接した児童は500人以上、講師として直接指導した教育関係者は2000人以上にのぼる。2023年度よりベネッセ教育総合研究所に所属。『子供が伸びる「待ち上手」な親の習慣』(青春出版社)、『教師のための叱らない技術』『withコロナ時代の授業のあり方』(ともに明治図書出版)、『オンライン学級あそび』(学陽書房)など著書多数。