大学院と執行役員を両立する中で見えてきたもの
目指す場所がはっきり見えたことで、これまでのモヤモヤはすっかり晴れた。そして49歳の時、会社に抜擢されて広報部長に昇進。自身の先行きに悩み始めてから10年後のことだった。
その後、鈴木さんのキャリアはますます伸びていく。会社が女性登用を進め始めたことも後押しになり、グループ会社の取締役に就任。50代半ばには広報のグローバル展開の一環としてシンガポールでの国際交流イベントを大成功に導き、さらに自信をつけた。会社からの評価も高まり、翌年、サンスターの広報担当執行役員に昇格する。
躍進を続けていたこの頃、実は心の中ではずっとキャリアのあり方を問い直していたという。自分は運よく広報としてキャリアを築いてこられたが、部下の中には会社と自分の意思が一致しないまま歩んでいる人もいる。会社員が、最初から最後まで自律したキャリアを築くにはどうすればいいのか──。
そのうちに会社と個人の関係性を理論立てて学びたくなり、大学院でキャリアデザインを勉強しようと決意。入学後に執行役員に昇格したこともあり、仕事と勉強の両立には苦労したそうだが、それを補って余りある大きな気づきを得た。
「組織の中にいるキャリア中期の人、30代半ばから40代の人は『キャリア・ミスト』という心理状態に陥りやすいそうなんです。霧に覆われたように先行きが不透明な感覚にとらわれるのだと。それが学問として研究されていることに驚きました。私が30〜40代の時に感じていたモヤモヤはまさにこれだったのだと、パッと目が開かれた思いでした」
女性が考える理想のキャリアや理想の組織を提示していきたい
かつてのモヤモヤの正体がわかり、学び直しの効果を実感した鈴木さん。大学院での2年間はとても刺激的かつ充実した日々で、いくつになっても学び続け、人間力を高め続けなくてはと思いを新たにしたという。
今後の目標は、執行役員として自らが手を挙げてスタートしたグローバルでのサステナビリティ活動を牽引していくこと。さらに、個人としても明確な目標がある。
「自分の経験と大学院での学びを生かして、組織で働く女性のキャリア支援をしていきたいですね。女性が考える理想のキャリアや理想の組織を、社会に提示していけたらと考えています」
■役員の素顔に迫るQ&A
Q 好きな言葉
学びて思わざれば則ち罔し、思いて学ばざれば則ち殆し(論語より)
「『学んでその学びを自分の考えに落とさなければ、身につくことはない。また、自分で考えるだけで人から学ぼうとしなければ、考えが凝り固まってしまい危険である』という意味です」
Q 愛読書
『砂糖の世界史』川北稔
『現代語訳 論語と算盤』渋沢栄一
『十二国記』小野不由美
Q 趣味
読書、スポーツ観戦(サッカークラブ「鹿島アントラーズ」のサポーター)
文=辻村洋子 撮影=小林久井
1983年、短大を卒業後、サンスター入社。人事・総務業務や秘書業務を担当したのち自ら希望して大阪本社へ転勤、社員福祉組織設立に携わる。98年、広報部(東京)へ異動。広報部長、グループ会社の取締役を経て2018年より現職。同年、法政大学大学院キャリアデザイン学研究科に入学し20年卒業。