啓発活動の限界を実感したイクメンプロジェクト

夫本人が「育休を取りたくない」「妻に協力したくない」と考えていることが原因であれば、本人に向けた啓発活動が効果的でしょう。しかし実際には、育休を取得したいと考える男性は約八~九割いるにもかかわらず、実際の取得率は7%台ですから、そこには育休を阻む組織側の問題が大きいことは明らかです。男性が育休取得を希望した企業で今まで起きてきたのが「パタハラ」でした。また、日々の育児に参画しようとしても現実的にかなわないような長時間労働。そして組織の属人的な仕事のやりかたにより、一人が休めば仕事が回らないような体制を作られていて、責任感の強い男性ほど育休を取ることが事実上できないような仕組みになっていたのです。

小室淑恵、天野妙『男性の育休』(PHP新書)
小室淑恵、天野妙『男性の育休』(PHP新書)

このように、企業側に大きな要因があるにもかかわらず、政府の対策は本人に向けた「啓発活動」にとどまってきました。たとえば二〇一〇年に厚労省が立ち上げたイクメンプロジェクトは、男性の育児・家事参画を促す目的で創設され、筆者もその委員を一〇年間務めてきました。

座長は認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さん、他の委員はプロデューサーのおちまさとさん、育休プチMBAの代表であり、静岡県立大学准教授の国保祥子さん、中央大学の高村静准教授、大正大学の田中俊之准教授、日経DUAL創刊編集長の羽生祥子さんなど、各界で活躍するリーダーで、男性が育児参画しやすいムーブメントを起こすために、「イクメン企業アワード」「イクボスアワード」表彰対象者の選考などを熱心に行なってきました(イクボスとは、部下の育児と仕事の両立を支援する管理職のこと)。

壁となった厚労省委員との問題意識の差

しかしながら、約一〇年かけて男性の育休取得率は2%程度から約7%に変化しただけ。本人への意識啓発も大事ではありますが、それ以上に男性の育休取得を阻止している企業に対して抜本的な制度改定をするべきであるという議論が、委員の間でも年々高まっていきました。

二〇一八年、ついに業を煮やした何人かの委員たちで「企業の対応を変えるために法律を変える必要があるのだから、このプロジェクトでその点を検討すべき」と厚労省にぶつけました。しかし、返ってきたのは「このプロジェクトはあくまでもイクメン啓発事業ですので」という杓子しゃくし定規な回答でした。これだけ深刻な少子化であるにもかかわらず、事業の枠を超えて動かない厚労省に委員たちがメラメラと憤ったのを覚えています。