少子化対策には、企業への働きかけが急務
実はこの第一子出産以降における夫の家事育児参画時間が、どうやら日本の少子化の根本要因であるということが、厚生労働省のデータで分かってきています。同じ夫婦を一一年間追跡調査してみると、第一子が生まれた際に、夫が休日に六時間以上の家事育児参画をしていた家庭では、なんとその後八割の家庭で第二子以降が誕生していたのです。夫の家事育児参画時間が少ないほど、第二子以降が生まれていないということなのです。
孤独な子育てが妻のトラウマ体験になる国が、少子化になるのは当然とも言えるでしょう。第一子の孤独な育児で妻の自殺を招いてしまったり、夫婦の信頼関係が崩壊してしまったりすれば、第二子以降は生まれないのです。
しかし、妻を孤独に追い込んだのは「夫の意志」ではないのです。妻の妊娠が分かり、育児に参画することを楽しみにしていた男性の多くが、職場に育休を打診すると「まさか育休なんか取るんじゃないだろうな」「取ったらどんな処遇になるか分かっているよな」という組織の壁に阻まれてきました。取引先や出向先の企業から「男に育休を取らせるような企業とは契約しないぞ」というような圧力を受けて断念させられたというケースもあります。そもそも言い出すことすら不可能な同調圧力の強い風土の企業もまだまだ多いのが現実です。ここが重要なポイントです。こうした企業の阻害が、結果的にこの国の少子化を招いたのですから、企業に対して政府が何らかのルールを設定しなければ、解決するはずがありません。にもかかわらず、政府の施策は、ずっと育児する本人たちの意識に働きかけるものにとどまってきたのです。
三十年前から行われている少子化対策
遡ること三〇年前の一九九〇年は、国の少子化対策にとってターニングポイントとなった年でした。前年の出生率が1.57となり、一九六六年の1.58を初めて下回ったのです(一九六六年は丙午の年であり、例外的に出生率が低かった)。その三年後の一九九三年、政府は「男女ともに仕事をしながら子育てしましょう」と「共働き社会」への変革を宣言。「少子化社会対策基本法」や「次世代育成支援対策推進法」といった法律を制定しました。
その後も次々と国は少子化対策を講じてきました。
しかし残念ながら、今も少子化に歯止めはかかっていません。なぜなら、政府は「男性も育児家事に参画しましょう」「夫婦で協力して子育てしましょう」と、育児中の夫婦、本人たちに働きかけ続けているからです。