働く時間のモチベーションアップになるものをつくりたい

しかし、時代の追い風が吹いてきた。独立してから毎日、日経新聞を読んでいたが、Suicaの発行枚数の増加や、Suicaの他社相互利用開始がニュースになっていた。

「カードの時代が来るのではないか」と順子さんは考えた。個人のIDケースもカード型になりつつある。カードは身に着けるものだ。持っているだけで働く時間のモチベーションが上がるような商品を作ってみよう、と思い付いたのだ。

IDケース
IDケース。写真提供=A.Y.Judie

そこで、オフィス雑貨の市場を調べてみると、カードホルダーは革のシンプルなものしかなかった。ちょうど娘の香南子さんがインターンで外資系投資銀行に勤めており、IDカードを持っていたので、順子さんが作ったカードホルダーを香南子さんに会社で使ってもらった。すると、順子さん作のスタイリッシュなカードケースは、香南子さんの上司からほめられたのだ。

「これだ!」と思い、ストラップを多数展開して展示会に出すと、東急ハンズやロフトのバイヤーにつながった。カードケースとネックストラップを組み合わせるようなコーナーを作りましょうと提案し、販路を広げた。こうした提案は、チェーン店舗経営時代に売り場を作ってきた順子さんの得意技だった。

この戦略で飛び込み営業を重ねたことが功を奏し、商品を置いてもらえる百貨店やファッションビルが増えていった。カードケースのヒットで、働く女性に「ちょっといい暮らし」を提案するという夢が、小さいながらも一つ形になった。

娘が会社に合流

海底からようやく水面に上がることができ、「両生類になったくらいの時期でした」と順子さんは振り返る。

そんな状況のA.Y.Judieの門をたたいたのは、ほかならぬ娘の香南子さんだった。

香南子さんは、母の背中をずっと見てきた。物心ついた頃には両親はいつも仕事をしており、大変そうではあったが好きなことをしている人たちだと感じていた。

香南子さん自身は、自己主張が強いほうではない。幼い頃から、パーティーに集まっているみんなに対して、「みんな、楽しい⁉」と呼びかけるようなタイプ。「『自分が』ではなく、『みんなが』楽しんでくれることをやりたいという思いが強いんでしょうね」と香南子さんは話す。

大学2年のとき、早稲田大学国際教養学部からカナダ・マギル大学教養学部に編入、卒業した。インターンに通っていた投資銀行でそのまま内定を取り、その日本法人で投資銀行部門の仕事をすることになった。金融の仕事を選んだのは、やりたかったというより、将来のキャリアを狭めないようにするためには金融業界に進んだほうがいいだろう、という程度の気持ちだった。