「良妻賢母」を美化することの罪深さ

ニッポンで求められがちな「キラキラしていること」という要素は、他の先進国には存在しません。考えてみれば、母親が子どものお弁当のために朝の5時に起きるのは他の先進国ではやらないことです。化粧だって、キレイに見える下地作りだとか、元気に見えるメイク等の雑誌の特集が日本では盛んですが、欧米では「すっぴん」がスタンダードだったりしますから、その分女性は疲労しないわけです。

サンドラ・ヘフェリン『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)
サンドラ・ヘフェリン『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)

ところで日本の一部の私立小学校ではしばしば「良妻賢母」が美化され、子どもの運動着や運動靴を入れるために、母親に何かと手製の布バッグを縫わせたがりますが、私立校を運営している側は「令和の時代になっても昭和のお母さん像」を再現させていることが「121位」の遠因になっていることをそろそろ自覚してもいいのではないでしょうか。

しつこいようですが、一つひとつを見てみれば、それは子どものためだったり、そんなに大変なことではなかったりしますが、「チリも積もれば山となる」のように、エネルギーを使う小さいことが日々重なれば、それはやがて女性の大きな疲労につながってしまいます。

1日は24時間しかありません。「女だけに強いられる家事」だとか「お手製のナントカ」だとかに時間を割いてしまうと、その分睡眠時間が減るのは確実です。睡眠が短くなるのは健康に悪いのはもちろん、仕事のパフォーマンスも落ちるので、このような結果として長く時間を奪われる日常の雑事からは一刻も早く逃げるべきです。

よく「欧米の女性はどうやって仕事と家庭を両立させているのですか」という質問を受けますが、答えはズバリ、こうした「雑事」がない点が大きいということです。ニッポンの男性から見ると、欧米の女性は「繊細さが足りない」とかなんとか言われがちで私としては悔しいところですが、「男性と同じく日常のチマチマにはこだわらない」ため、自由に仕事や子育てに打ちこめるというのもまた事実なのです。

政治家を働かせるには女性が「頑張らない」こと

まず認識すべきは、女性が頑張れば頑張るほど、政治家は頑張らなくなるということです。育児を全部女性が頑張ってしまえば、政治家が保育園を増やす努力をしなくても良くなってしまいます。他の件に関しても同じです。女性がPTAを頑張れば「これからも給料は出ないけど面倒な用事は女性に」というふうに世間の雰囲気が出来上がってしまいます。

そうすると、「日常の雑事が大変だから」と仕事をやめ専業主婦になったり、「時短」で働いたりと、本末転倒な結果になってしまいます。しかも、そのような道を選べば、世界の男女平等ランキングで順位が下がってしまうという悪循環つきです。

現役で元気なうちに、「女性が頑張れば頑張るほど男女平等ランキングで落ちる」という皮肉な現実を受け止めたほうが良いでしょう。そうすれば肩の力も抜けるというもの。別に何もやらなくたって良いんです!

写真=iStock.com

サンドラ・ヘフェリン(Sandra Haefelin)
著述家・コラムニスト

ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)、『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)、『ほんとうの多様性についての話をしよう』(旬報社)など。新刊に『ドイツの女性はヒールを履かない~無理しない、ストレスから自由になる生き方』(自由国民社)がある。 ホームページ「ハーフを考えよう!