世代間ギャップを解消する現代のリーダー像

この世代間のギャップを、半沢のリーダーシップで乗り越え、2つの世代が団結して強大な相手に挑んでいくプロセスがドラマでの見どころになっている。最初は距離のあった半沢と森山たちが、最後は目的を一つにしてチームワークを発揮していく。ついには逆境を跳ねのけ、本シリーズの名言でもある「倍返し」を実現するのである。このドラマが高視聴率となったのは、多くのビジネスパーソンが、世代間のギャップに対する悩みや課題感にリアリティを持つ一方で、半沢のような現代的なリーダー像や各人の強みを活かして成功をつかむ組織像に共感していることの証しではないだろうか。

半沢は熾烈しれつな出世争いに没頭している上役たちと対峙し、バンカーとしてのプライドを持ち続け、仕事の意義を伝えることで周囲の信頼を得ていく。森山たちの若い世代は、出世よりも仕事の社会的価値に向かって真摯に取り組むことに共感し、次第に心を開いていく。半沢と同世代で、目先の業績に目がくらみ、私欲のために仲間を裏切る諸田(池田成志)とは対象的である。一方で、森山も最初はきっぱり断っていたバブル世代の「飲みニケーション」にも参加するようになり、バブル世代の考えるダイナミックな仕事ぶりをみて、自身の仕事にやりがいを見いだす。このような世代間の歩み寄りがみられるのは興味深い。

高まる女性リーダーへの期待

さて、プレジデントウーマン読者の中には女性管理職も多い。自分の職場とのギャップを感じている読者もいるのではないだろうか。ドラマの舞台となる銀行や証券会社は完全な男性社会として設定され、浜村(今田美桜)のほかほとんど女性社員は登場しないこと。あるいは半沢の妻の花(上戸彩)が専業主婦という設定には、(原作での時代設定が2004年であることと、舞台となる銀行を古いパラダイムを残す組織の象徴として描いていることを差し引いても)違和感があるかもしれない。しかし、性別や年代にかかわらず、どのような組織においても仕事の価値観のギャップは存在しており、そこをうまくチューニングしながらリーダーシップを発揮していくことが求められている。

コロナ禍で育児や仕事とのバランスやテレワーク活用への理解など、世代による環境や価値観の違いがより顕著になっている。性別にかかわらず、半沢直樹のドラマから得られる示唆は、お互いの世代の背景や強み、弱みを理解し、歩み寄ることが強いチームを作るということである。また、このドラマが性別や年代を超えて多くの視聴者に受け入れられているのは、半沢が組織の古い慣習や私欲にとらわれず時代の変化を受け入れ、信念をもって真摯な取り組みを続けているからである。これこそが、現代のリーダー像として求められているのではないだろうか。筆者は、男性と女性、ベテランと若手といった対立構造で語る時代はもはや終わり、今後はさらに個々の価値観や持ち味を生かすリーダーが活躍する時代になると考えている。プレジデントウーマン読者の女性リーダーたちへの期待も高まるのではないだろうか。

写真提供=TBS

松木 知徳(まつき・とものり)
リクルートマネジメントソリューションズ コンサルティング部 シニアコンサルタント

2007年リクルートマネジメントソリューションズ入社。コンサルタントとして企業の人材開発・組織開発に従事し、数々の表彰を受ける。テクノロジーや科学的な理論をもとにしたコミュニケーションの改善や組織の従業員のモチベーション向上の要因を研究し、新サービスの開発、メディアでの執筆活動や企業での講演などを多く行っている。団塊ジュニア世代(ロストジェネレーション)。