突然訪れたバブル崩壊と就職氷河期
1991~1993年のバブル崩壊により、企業の採用環境は激変した。実際の卒業者数と有効求人倍率の推移をみると、半沢らのバブル世代の有効求人倍率(※3)は1990~1991年の1.40をピークに極めて高いが、1999年には0.48と数年の間に環境が急激に悪化していることが分かる。原作では、大学生活を真面目に過ごし、成績優秀であった森山が数十社の企業から不採用になるなど氷河期に苦しみながら就職をしており、森山と中学・高校の同級生である瀬川(尾上松也)も経済的に苦労しながら這い上がってきたことが生々しく描かれている。
「世代論」を研究している博報堂の阪本・原田(2015)(※4)によれば、バブル世代の特徴として、自分の能力を余計な遠慮や自己嫌悪に陥らずに十分に発揮できる。一方、自分を大きく見せ、本人の実力とのギャップに悩む人もいる。団塊ジュニア世代の特徴として、就職時期までは豊かな生活を送り、同世代の人口が比較的多いため、受験戦争などで常に競争にさらされてきた。自己啓発に励む一方で、上の世代の価値観に疑問を抱いているとしている。ドラマにおいても、リスクをとって大胆な行動に出るバブル世代と、真面目に仕事をこなす団塊ジュニア世代の特徴が伝わってくる。
出世より、仕事が面白いことが大事
就職時の社会環境は各世代の仕事観にも大きな影響を与えている。関連する調査データにも触れたい。日本生産性本部(2019)は会社の選択理由について新入社員の調査を毎年行っている。この推移をみると、バブル世代では高かった「会社の将来性」がバブル崩壊とともに急落し、会社よりも自身にとって「仕事が面白い」ことに意義を見いだすようになっている。世代による仕事の価値観の違いがドラマからも窺える。それは出世や役職にこだわり、組織のメンツを大事にするバブル世代の銀行出向者と、組織に迎合せずに冷ややかにみている証券子会社のプロパー社員との対比において象徴的に描写されている。
(注釈)
3:有効求職者数に対する有効求人数の比率のこと(出典:ブリタニカ国際大百科事典)
4:阪本節郎、原田曜平(2015)『世代論の教科書』 東京経済新報社