「つ・な・ぐ説明会」の全国展開が決定

この試験運用は今年(2020年)2月後半に行われ、実験と同じく顧客から高い評価を得た。そして3月にコロナウイルスの影響が拡大。MRの訪問を禁止する医療施設が増える中、会社は4月から「つ・な・ぐ説明会」の全国展開を決めた。

「一歩踏み出すのは怖かったけど、メンバーと会議を重ねてはげまし合うことで乗り越えられた」と、中央日本支店MRの丸山晴香さん。メンバー4人は勤務地も担当領域もバラバラ。リアルで会える機会は少なかったが、くじけそうになった時は電話やオンラインで支え合ったという。

全国展開が始まっておよそ5カ月。今では、当初は予想していなかったメリットにも気づき始めた。ひとつは、他のMRの手法を学べること。対面営業では先輩に同行したくてもなかなか時間が合わなかったそうだが、これが気軽に、しかも複数の説明会に同席できるようになったのだ。

営業職のOJTは、顧客への配慮も必要なため難しいことが多い。だが、複数の顧客が参加するオンライン説明会なら、このハードルはぐんと低くなるだろう。同席すれば他のMRの説明や伝え方を学べる上、顧客のニーズに関してもより幅広い情報が得られる。これはMRとしての成長にも大きく役立つはずだ。

顧客の反応がリアル説明会よりよく見える

もうひとつは、顧客が対面よりも積極的な姿勢で聞いてくれること。画面を見つめる姿勢になるためか資料をよく見てくれるようになり、表情や反応などリアルの説明会や講演会ではわかりにくかった部分も、しっかり感じとれるようになった。

さらに、移動やイベント準備、会場撤収などにかかる時間的負担もなくなり、MRの生活にもよい変化が起きたという。

「会社にいられる時間が増え、内勤業務をデイタイムに終えられるようになりました。そのおかげで、今は子どもと過ごす時間や自分のための時間を確保できています」(藤原さん)

顧客のニーズに応えられないことや生産性の低さを解消しようと始めた取り組みは、結果的にMRのワークライフバランス改善にもつながった。これは、同社の女性MRが仕事を続ける上で、大きな後押しになるのではないだろうか。

コロナショック以降、オンライン化は多くの業種で加速している。今後も、彼女たちが考案した「つ・な・ぐ説明会」を活用する顧客は、増えこそすれ減ることはないだろう。

日本イーライリリーの事例は、社内改革をボトムアップで成功させた好例でもある。業界の当たり前を疑ってみること、一歩踏み出す勇気を持つこと──。メンバーたちが語った言葉は、会社を変えたいと願う人すべてにとって大きなヒントになりそうだ。

文=辻村洋子

辻村 洋子(つじむら・ようこ)
フリーランスライター

岡山大学法学部卒業。証券システム会社のプログラマーを経てライターにジョブチェンジ。複数の制作会社に計20年勤めたのちフリーランスに。各界のビジネスマンやビジネスウーマン、専門家のインタビュー記事を多数担当。趣味は音楽制作、レコード収集。