スタートは「当たり前を疑うこと」から
そこで、藤原さんを含む女性MR4人が、異業種合同のプロジェクト「新世代エイジョカレッジ」への参加をきっかけに、課題解決に向けた取り組みを開始。「まず、訪問して説明するという『当たり前』を疑ってみた」結果、複数の顧客が同時に参加できる“相乗りスタイル”のオンライン説明会という案が生まれた。
1人のMRが複数の顧客をつないで説明を行うことから「つ・な・ぐ説明会」と名付け、全社展開を目指してまずは実証実験を行ったという。4人のメンバーがそれぞれ顧客のニーズと参加できる時間帯を調整し、1カ月間で12回のオンライン説明会を実施。おのおのが所属する大阪支店や北日本支店などで、自ら顧客に参加を呼びかけた。
当時はコロナショックが起きる前。今と違ってオンライン会議なども普及しておらず、「イメージできない」と参加をためらう顧客もいた。だが、実証実験であることを伝え、興味を持ってくれた顧客から実施していくと、顧客にとってもMRにとってもさまざまなメリットがあることがわかり始めた。
参加した医師からは「病院からでも自宅からでも参加できて便利」「他の医師の意見が聞けて勉強になった」という声が上がり、説明会後のアンケートでは92%もの顧客が「満足した」と回答。
週の労働時間7時間減、売り上げ増
また、MRの側では訪問先での待ち時間が従来の53%になり、週の労働時間は7時間近く減少。移動がないため顧客と面会できる時間も164%増となり、業績は対前年同期比で137%にものぼった。
北日本支店のMR、渡邊あゆみさんは「通常は忙しくて面会できない先生も『オンラインなら』と参加してくれた。より多くの先生にスピーディーに、正確な情報を提供できた実感がある」と語る。
実験結果の数値と渡邊さんのコメントからは、オンライン説明会がいかに効果的・効率的だったかがよくわかる。顧客のニーズに真摯に向き合ったこと、業界で長らく「当たり前」とされてきた営業手法を疑ってかかったことが、予想以上の成果をもたらしたのだ。
支店長は「そんな発想、全然なかった」
こうした逆転の発想を、上司はどう感じたのだろうか。藤原さんの上司で大阪支店長の中村哲也さんは「恥ずかしながら、私にはそもそもそういう発想自体がなかった」と振り返る。
最初にオンライン説明会の案を聞いた時は驚いたそうだが、実証実験での顧客の反応を知って進めるべきだと判断。今では「組織にすばらしいイノベーションをもたらしてくれた」と賞賛を送る。
実証実験後、「つ・な・ぐ説明会」は大阪支店で試験運用が行われた。彼女たちの熱意が支店長を動かし、その支店長が会社に働きかけ、たった4人で始めた企画は大きく動き出していった。もともと新しい試みが認められやすい社風だったことも大きかっただろう。