2つのメリットをPRして社長を説得

社員が実際に移住するような実験を行うには会社の承認が不可欠だ。しかも同社では、営業メンバーがこうした新企画を持ち込むのは初のことだったという。前例のない中、彼女たちは上司をどう説得していったのだろうか。

「あたらしい転勤」の制度化を検討中。
同社では、「あたらしい転勤」の制度化を検討中。撮影=やどかりみさお

「皆であらかじめ、社内の誰から押さえていけば話がまとまるかを考えたんです。その結果、転勤や転居の話だからまずは人事部に話そうと。その後、支店長にも話を通していって、最終的には社長にも直接プレゼンさせてもらいました」(吉野さん)

社長を説得するに当たっては、「あたらしい転勤」のメリットのうち2つを特に強くPRしたのだそう。ひとつは、自分や配偶者の転勤によって退職する女性が減り、人材確保につながること。もうひとつは、転勤者にかかるコストを現在の3分の1以下にまで圧縮できる可能性が高いこと。

感情論ではなく、人材やコストといった経営的な側面からの説得が功を奏したのだろう。データや数値を織り込んだプレゼン資料も高く評価され、企画は無事通過。これがメンバーの達成感につながり、実証実験をやり抜く原動力にもなったという。

「あたらしい転勤」は制度化できるか

実験から1年弱。今、同社では「あたらしい転勤」を人事制度化する動きが進んでいる。地方支店の社員が東京に来て、本社オフィスから支店業務を行う追加実験も進行中だ。

同社の人事担当者は「今後の課題は、リモートで働く社員と現地で働く社員が協働しあっていける仕組みづくり。この点を大事にしながら、将来的には社内で広く展開できるようにしたい」と語る。

昨年とは違い、コロナショックを経た今はリモート営業も広く普及しつつある。営業は客の元に出向くのが当たり前、転勤になったら引っ越すのが当たり前──。そんな「常識」を変えようとした彼女たちの取り組みは、現在の社会情勢を先取りしたものでもあった。

女性は、育児や介護などのライフイベントとキャリアパスのタイミングが合わないこともしばしば。他支店に異動になっても住まいを移さずに働くという選択肢があれば、キャリアを中断せず成長を続けていける可能性も高まる。「あたらしい転勤」の今後の展開に期待したい。

撮影=やどかりみさお

辻村 洋子