「現場第一」の会社でリモート転勤を提案

リモート営業が実現できれば、例えば首都圏に住みながら地方支店の仕事をする、またはその逆も可能になる。リモートを活用しつつ、顧客の元へ足を運ぶ必要があるときは出張で対応すれば、異動先の土地に移り住む必要はなくなりそうだ。

問題は、これが現実に可能なのかどうかだ。リモートワークは、コロナショックを経た今では当たり前になりつつあるが、吉野さんたちが取り組みを始めたのは2019年。会社のモットーは「現場第一」、営業は現場に足を運ぶのが常識で、リモートワークに対応している顧客もほとんどおらず、対面以外での打ち合わせはほぼあり得なかったという。

励ましあいながら実証実験を行った営業女子たち。
励ましあいながら実証実験を行った営業女子たち。撮影=やどかりみさお

ただ、同社では当時からテレワークが推進されており、営業業務のうち45%は遠隔でも可能とされていた。それでも業務の半分以上で対面が必要となると、やはり転勤=転居にならざるをえない。

ここを乗り越えるため、チームはあらためて業務を洗い出し、社内会議や顧客打ち合わせのオンライン化、書類の電子化、業務分担といった部分に改善の余地があることを発見。通常なら、ここで改革案をまとめてミッション終了となるところだが、彼女たちは違った。自分たちの案が実現可能だと証明するため、自ら被験者になって実証実験を行ったのだ。

「お客様に失礼かもしれない」は杞憂だった

実験を行ったのは、2019年の9月中旬から約1カ月間。メンバーのうち本社に勤務する3人が地方支店のある地域に長期出張し、地方支店からリモートで本社の業務を行った。前述の改善点を実行しながら、どうしても現地訪問が必要な場合は東京に出張。その結果、リモート化が可能な業務は、従来の45%から85%にまで増やせることがわかった。

移住したメンバーの一人は「最初は、リモートではお客様に失礼かもしれないという思いもありました」と語る。だが、働き方を変えるための実験であることを丁寧に説明し、1人はリモートでも1人は必ず訪問するという2人組の態勢を組んだところ、予想以上に好意的な反応が得られた。

気がかりだった遠隔地からのマネジメントも、リモートでの報告やコミュニケーションを密にすることで解消できた。当初、社内からは反対の声も上がったそうだが、実験が進むにつれて徐々に応援してくれる人が増えていったという。

1カ月の実証実験は、移住したメンバーにも価値変化をもたらした。「地方支店で働いたことで、営業手法などを自分の支店に持ち帰れた」「地方の顧客の東京出店を手伝うきっかけができた」「転勤自体には大きな意義があるとあらためて気づいた」など、それぞれに大きな発見があったようだ。