エストロゲンが減ると腱や関節を守る「滑膜」が影響を受ける

関節の変形を防ぐカギはエストロゲンにある。エストロゲンは受容体と結合することで作用するが、その受容体は子宮内膜、乳腺、血管、気道の他、腱や、関節の周りにある「滑膜」という部分に存在し、腱や関節を守る役割を担っている。そのため、更年期にエストロゲンの分泌が急激に減少すると、腱や関節が腫れたり痛みが出たり、こわばるといった症状が出てしまうのだ。

手指に限らず、股関節、肩、ヒジなどでもこうした関節の症状は起こるという。しかし、手指に高い確率で起こるのはなぜなのだろうか。

「二つの理由が考えられます。一つは、女性ホルモンは血流にのって作用するため、体の末端である手指は血流が低下して影響が出やすいのではないかということ。実際、血行不良になりやすい冬に悪化する傾向があります。もう一つは、手指の関節は小さいわりに使用頻度が高く酷使されているということ。関節にかかるストレスから、変形が起こりやすいのではないかと考えられます」

腫れや痛みを感じたらすぐに治療を始めることが大切だと平瀬先生は話す。また、最近は症状が出る前からの予防にも注目が集まる。エストロゲンの補充やエストロゲンに似た作用を持つエクオールをサプリメントで摂ることでも効果が望める。症状が初期であればエクオールでも改善が期待できるという。

家族に手指の変形がある人がいる場合は早めの予防を

エストロゲンの分泌が減るのはどの女性も共通だが、すべての女性の指に変形が起きているわけではない。この差はどこにあるのか? それはエストロゲンに似た作用を持つエクオールをつくり出す能力の個人差によるものだという。

エクオールは大豆イソフラボンから腸内細菌によってつくられる成分で、エストロゲンと似た働きをする。エクオールをつくれる腸内細菌を持つ人は日本人の2人に1人といわれ、産生能には差があるのだ。

「手指の変形性関節症を持つ患者さんのほとんどに、エクオール産生能がありません。また、滑膜のエストロゲン受容体にも個人差がありエストロゲンの影響の受けやすさには個人差があります。エクオールがつくれない人や、母親や祖母などに指の変形が見られる人は手指の変形性関節症になりやすい体質を受け継いでいる可能性があるので、エクオールのサプリメントを取り入れて予防するといいでしょう。また、授乳中に症状が出た人は、更年期にも痛くなる可能性が高いので注意しましょう」
「さまざまなエクオールサプリメントが出ていますが、毎日飲んでいただきたいので、信頼できるものを選ばれると良いですね。1日10mg摂れて、例えば乳酸菌など、安全の確認された菌で発酵されたものを選ぶと安心でしょう」

手指に異変を感じたら、次のことをしてほしいと平瀬先生は話す。

<予防>
●エクオール検査をしてみる(専用キットで検査可能)
●家族の手を見る
●女性ホルモンが減り始める40代ごろからエクオールを選んで飲み始める(1日10mg以上必要)
<治療>すでに変形がある場合
●手外科専門医を探す(日本手外科学会HPで検索可能。現在専門医は1000人程度)
●女性の手疾患に理解のある手外科医を探して相談

更年期症状といえば、ホットフラッシュ(のぼせ・ほてり・発汗)がよく知られているが、手指の関節にもエストロゲン減少の影響が起こることを知っておきたい。8月10日は「手(ハンド)の日」。これを機に、自分の手指の状態を確認してみよう。

写真=iStock.com

中島 夕子(なかじま・ゆうこ)
フリーライター&エディター

ヘルス&ビューティ系の記事を中心に、Web、雑誌、単行本などの執筆を手掛ける。