その出勤や会食は本当に必要なのか

接待や商談を目的とした会食、社内の交流のための飲み会なども、今、どうしてもやらなければならないのかを考える必要があります。参加者全員が同じ見解で、「感染対策をとりながら慎重に行いましょう」という姿勢ならまだしも、中には「心配だから出席したくない」と思っている人もいるかもしれません。

不安がある人は正直に伝えましょう。もし言い出しづらい、あるいは言っても却下されるようであれば、その企業の風土自体が間違っています。断りたくても言い出せない、行きたくないのに無理やり連れて行かれる──。これは、コロナの問題以前の問題。まさにパワハラ・アルハラというものです。

接待をしなくては仕事を受注できないのでしょうか。商談とは、会食をしなければまとまらないものなのでしょうか。社内交流には飲み会が必須なのでしょうか。そして、それらは意志に反して出席しなければならないほど、重要なものなのでしょうか。出席したい人もしたくない人も、その意志は同じように尊重されなくてはならないと思います。

企業文化ではなく「必要かどうか」を行動のものさしに

先ほども言ったように、新型コロナウイルス感染症に関しては心配派と楽観派とが混在していて、人によって意識に差があります。感染防止についても、各自が思い思いの場で思い思いの対策をしていて、ダブルならぬマルチスタンダードの状態にあります。

職場やスーパーでは過剰なほど3密に気をつけているのに、満員電車には普通に乗るし、飲み会ではノーマスクで大声で談笑、その3密の居酒屋から外に出てきた瞬間に慌ててマスクを着けるといったように、対策を「一生懸命行う場」と「まったく気にしない場」が奇妙なほど混在している日常を、皆さん当然のように受け入れてはいませんか。そのことを気づいていない人がむしろ多いようにさえ見えます。。

職場での対策についても、おかしいと感じることがあればオープンに話し合っていくことが大切だと思います。緊急事態宣言中は、多くの企業がリモートワークという統一行動をとりましたが、今後は業種や企業体質によって対応が分かれていくでしょう。その時に、一部の人の見解だけで方針が決まるようでは、不安や不満を抱えながら働く人がどんどん増えてしまいます。

本当に対面しないと仕事にならないのか。飲まないと仕事にならないのか。今、そうしたことを真剣に考える時期が来ています。今後、働く人が行動のものさしにすべきなのは、長年の間に出来上がった出社の伝統や、しみついた企業文化ではなく、「本当に必要なのかどうか」「本当に意味があることなのかどうか」です。

新型コロナウイルスは収束どころか感染拡大の様相を呈しています。各企業は第2波、第3波に向けて、リモートワーク期間中の評価や、今後の働き方に関する議論を行っていく必要があるでしょう。この機会に、日本の職場が変わっていくことを期待しています。

構成=辻村洋子 写真=iStock.com

木村 知(きむら・とも)
医師

1968年生まれ。医師。10年間、外科医として大学病院などに勤務した後、現在は在宅医療を中心に、多くの患者さんの診療、看取りを行っている。加えて臨床研修医指導にも従事し、後進の育成も手掛けている。医療者ならではの視点で、時事問題、政治問題についても積極的に発信。新聞・週刊誌にも多数のコメントを提供している。2024年3月8日、角川新書より最新刊『大往生の作法 在宅医だからわかった人生最終コーナーの歩き方』発刊。医学博士、臨床研修指導医、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。