コロナ禍で見えた経営にとって本当に大事なこと
アフターコロナまでにはまだ時間がかかるでしょう。その間、「獺祭」を造りだしてからの30年でついてしまったぜい肉や悪しき習慣、必要なかった成功体験はリセットしようと考えています。去年ぐらいまで、売上高などの数字は追わないと言いつつも、醸造量が落ちないかという恐怖感がありました。けれども、コロナの影響で嫌でも減産を強いられた結果、品質や市場への適正な量をもう一度見直すことができました。軒並み中止になった日本酒の会やデパートなどでの試飲会にしてもそうです。本当にすべてを実施する必要があったのか、改めて考え直す機会になっています。現在ではSNSのコミュニティづくりやオンラインのお酒の会など、社内で活発に企画があがり、実現しています。失敗したものも多いですが、その経験も財産になりました。イベントが中止になることは残念なことですが、そのことで業務量が減った社員たちが、今できること、すべきことを考え企画にしています。
純米大吟醸というのはハレの日の酒でもあります。例えば、良いことがあったお祝い、特別な相手と食事をする場合のような非日常の席での主役なのです。今、この日本酒の位置づけは、より鮮明になってきていることを実感しています。ありがたいことに弊社は純米大吟醸の日本酒だけを醸造してきて、国内外の多くのお客さまに支持されています。私をはじめ社員たちも「おいしいね」との言葉に感謝しながら成長してきました。この立ち位置を自覚して、いま一度私たちもレベルアップしていかなければいけません。
まだまだ不安を抱えている方も少なくないと思います。ただ、だからこそ弊社としてはできることに取り組んでいきます。しばらくは、おっかなびっくり、一歩を踏み出すということになると思いますが、私たちがニコニコとして、世の中のにぎわいを取り戻していく形をみんなで模索していくことが大事なのではないでしょうか。1回1回の乾杯を通して、皆さんの役に立っていく。いま、私どもはそのように決意しています。
構成=岡村 繁雄 撮影=プレジデント ウーマン編集部
1976年生まれ、山口県周東町(現岩国市)出身。早稲田大学社会科学部卒。大学卒業後、酒造とは関係のない東京のメーカーに就職。2006年、実家の旭酒造に入社、常務取締役となる。2013年より取締役副社長として海外マーケティングを担当。2016年9月、代表取締役社長に就任、4代目蔵元となる。