役員就任は「会社がポテンシャルに賭けてくれた」
広報室長の仕事は大変だったが、嘉納さんは在任中の約8年間で大きく成長。どうすれば記者に興味を持ってもらえるかを考えて対話を続け、各メディアと良好な関係を築くことに成功した。
「向き合う相手はお客様からメディアに変わりましたが、コミュニケーションという面では大事なことは同じ。感情が先立ちそうになる時は最初の失敗を思い出すようにして、今も日々自分を戒めています」
ポジションが上がると、プレッシャーや「言うべきことは最後まで言い切らねば」という思いから、つい聞くことをおろそかにしがち。そんな時は消費者対応の原点に戻って、相手の立場に寄り添うよう心がけているという。
その後、嘉納さんは社外広報部門の部長に就任。コミュニケーションの相手は、メディアに加え行政や地域、有識者など社外のステークホルダーにまで広がった。
責任範囲が広がると、それだけの知識や確固たる自信も必要になってくる。嘉納さんはそこを補おうと、講演者養成講座や広報・情報の専門職大学院に通い始めた。職場のある神戸から学校のある東京へ、時間をやりくりしながら通う日々。ところが入学して1カ月後、突然執行役員の職を打診される。
「自分はまだ発展途上なのにって、正直気が重かったです。でも、会社は私に役員の力量があるから昇格させたのではなく、ポテンシャルに賭けてくれたのだと感じました。『チャンスはあげるから後は自分次第だよ』と言われた気がして、じゃあ挑戦させてもらおうと」
就任してもうすぐ丸3年。ほかの役員の姿を見て自分の至らなさを痛感させられることばかりだが、意思決定者としての自覚は確実に芽生えた。管理職時代から悩み続けてきたリーダーシップについても、「Be yourself(自分らしくあれ)」という言葉に出会って演じようとしていた自分に気づき、気負いすぎるのをやめた。
「今後は、『私はこの仕事をやり遂げた』って胸を張って言えるような実績を残したいです。まだまだ点ごとに仕事をしていて、それを線で結ぶような戦略性は持てていません。私はどこかでブレークスルーしたくて考え続けています」
お客様相談室から出発して、人や仕事との出会いを繰り返してきた嘉納さん。その過程で多くの刺激を受け、自分の新しい一面を発見しては成長につなげてきた。これからも自社と社会との関係構築に取り組みながら、自身のブレークスルーを目指していく。
役員の素顔に迫るQ&A
Q 好きな言葉
笑う門には福来たる
Q 愛読書
『地球家族―世界30か国のふつうの暮らし』ピーター・メンツェル他
「食と海外文化が大好き。このフォトエッセイ集で世界各地の食事を見て楽しんでいます」
Q 趣味
旅と食
Q Favorite item
文庫革の財布・名刺入れ・キーケース
「兵庫の伝統工芸『文庫革』がお気に入り。決まったものを集めることは少ないのですが、これだけは気づいたら増えていました」
文=辻村洋子
関西学院大学商学部卒。大手損保会社を経て、2000年よりネスレ日本のお客様相談室に派遣社員として勤務。翌年正社員となり消費者対応業務に従事。スイス本社への長期出張、お客様相談室長、広報室長、社外広報部部長などを経て17年より現職。19年、社会情報大学院大学にて広報・情報学修士を取得。