最初の失敗と上司の尽力がキャリアの糧に
この時は、あまりの言われようにトイレに駆け込んで大泣きしたそう。きつい言葉で反撃する相手も大人気ないが、消費者対応はとにかく話を聞くことが基本。これを怠ると解決は必ず遠ざかっていく。
嘉納さんは基本をおろそかにした自分を反省し、以来「相手の話をしっかりと聞くこと」「早く切り上げようと近道しないこと」の2つを胸に刻んだ。ネスレ日本での消費者対応に際してもこれを大切にしたという。
次に、嘉納さんは広報室長としてメディア対応を任されることになった。それまでのネスレは、「ネスカフェ」「キットカット」などの製品ブランドに関するコミュニケーションは活発だったが、企業そのものに関する情報発信にはあまり活発なイメージがなかったそう。しかし、2008年ごろを境に方針が一転。新たに広報室長になった嘉納さんにも、「攻めの広報をせよ」という指令が下った。
このミッションに「お客様と1対1で向き合うだけでも疲労困憊しているのに、メディアの後ろにいる無数の人を相手に話すなんて無理」と、つい後ろ向きに。この時背中を押してくれたのは、派遣社員時代から世話になっていた男性上司だった。
「私が疲れているのを感じとっていたようで、広報という新しい仕事でリフレッシュしたらどうかと言ってくれたんです。私が消費者対応業務にこだわっていると、『30代前半で自分のできる範囲を決めつけるな』とも。振り返ると、節目節目でいつもこの方が私のキャリアを引っ張ってくれました」
派遣社員から正社員として新たなコールセンターに移った時も、引き抜いてくれたのは同じ上司。スイス出張の話が出た時は応募するよう強く勧め、英語が苦手な嘉納さんのために面接にも同席してくれた。そしてお客様相談室長に指名し、今回は広報という仕事に向き合えるよう背中を押してくれた──。部下に次のステップを用意して成長させようとする姿勢は、上司のかがみと言えるだろう。
その上司の引退後も、年に1度は食事に誘って近況報告をしているのだとか。現役時代は恐れ多くて食事に誘うなどできなかったそうだが、今は会えば数時間はしゃべりっぱなし。上司にとっても、かつての部下の成長は大きな喜びになっているに違いない。