質の低下を許す寛容な社会を目指して

最近はテレビ番組にも、料理をするパパがよく登場するようになりました。しかし、毎朝時間をかけて手の込んだお弁当をつくるなど、非現実的なシーンも少なくありません。実際には、忙しい毎日の中でそんなことをするのはほぼ不可能と言っていいでしょう。正直、それが夫・父親のあるべき姿だ、などという価値観はいらないと思います。

それよりも、家事負担をいかに夫婦で分け合うか、いかに楽にするかといったことに力を注いでほしいものです。どんな家事にも、今より手を抜ける部分はあるはずです。欧米の人から見れば、日本人が料理や掃除に求めるクオリティーはレストランやホテル並み。この質を少し落としても、生活に支障はないと思います。

質の低下は許せない、けれど家事負担は減らしたいという人には、アウトソーシングという手もあります。ただ、こちらは費用がかかりますから、そこまでの金銭的余裕がなければ、自分たちの意識を変えていくほうが現実的でしょう。

負担を減らす上では、有償労働である仕事に対しては働き方改革など国による策があります。しかし、無償労働である家事には国は介入できません。民間で時短家事を推進していくか、個人個人が工夫するしかないのです。

女性の家事負担を減らすには、男性の参加が必須です。そのためには、男女とも仕事にも家事にも多少の質低下を許す“ゆるさ”が大事。この意識は今後、より寛容な社会をつくっていく上でも重要な鍵になると思います。

構成=辻村洋子 写真=iStock.com

筒井 淳也(つつい・じゅんや)
立命館大学教授

1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。