コロナショックに伴う休校や在宅勤務で、共働き家庭の女性の中には「かえって家事負担が増えた」という人も。家で過ごす時間が増えても家事はしない、そもそも「家事」の存在が見えていない。そんな夫たちの脳内に筒井淳也先生が迫ります。
台所で食器を洗う人
※写真はイメージです(写真=iStock.com/monzenmachi)

仕事も家事もあえて「質を下げる」意識を

日本の男性の家事参加は上昇傾向にあるとはいえ、家事に割く時間は女性に比べればまだ圧倒的に少ない状況です。これを均等にしようという議論も活発になってはいますが、今の日本は「男は仕事、女は家庭」という性別分業をようやく見直し始めたところ、つまり転換期に入ったところと言えるでしょう。

男女の家事時間を均等にしていくには、有償労働である仕事と無償労働である家事、双方の質の低下を許容できるかどうかが鍵になると思います。一般的に、日本人は仕事にも家事にも高いクオリティーを求めがちです。これを少し下げてもいいということになれば、どちらも時短が可能になる上、家事では不慣れな男性が新規参入するハードルも低くなります。

まず、有償労働から見ていきましょう。仕事の質を下げるとは、例えば「企画書は定時内で仕上げられるクオリティーにとどめる」「残業するぐらいなら期日を延ばす」といったことが考えられます。

これらが許される土壌があれば、有償労働にかける時間が減り、仕事一辺倒だった多くの男性に家事をする時間が生まれます。1日の大半を費やして目一杯仕事するのではなく、帰宅後の家事を見越して少し“ゆるく”働く。これを会社や取引先の全員が当たり前と考えるようになれば、男性の家事参加は大きく進むし、他方で女性の職場進出も後押しします。

専業主婦の母のレベルを目指さない

一方、無償労働の質を下げる例としては「多少家が散らかっていても気にしない」「食事は手料理だけにこだわらない」などが挙げられます。ところが、日本では女性のほうが家事のクオリティーにこだわる傾向が強く、掃除が行き届いていなかったり、冷凍食品を使ったりすることに罪悪感を覚える人も少なくありません。

特に専業主婦がいる家庭で育った女性は、自分の母親と同じレベルで家事をこなそうと頑張ってしまいがちです。しかし、共働きではそれは無理な話。仕事をしている分、家事にかけられる時間が少ないわけですから、「お母さんがしていたのと同じように」と思う必要はないのです。

さらに、家事の質にこだわる妻は、夫が担当した家事の出来栄えに満足できないことも。一つ一つやり直したり注意したりするようでは、夫のモチベーションも下がってしまいますから、ここも質の低下を許容する姿勢が必要でしょう。仕事と同じで、家事も“ゆるく”を意識してみてほしいですね。

男性は何のために家事をするのかわからない

しかし、そうして仕事や家庭の環境を整えたとしても、やはり家事をしない男性は一定数います。その理由は、一つには「これまでやってこなかったのに、なぜ今はしなければいけないのか」と思っているからです。何のために自分が家事をするのか、目的がわかっていないのです。

「何のために」と問われたら、答えは一つしかありません。妻の負担を減らすためです。共働き家庭で家事負担が妻に偏っているのなら、それを夫婦均等にするのは当然のこと。まずはそこを理解してもらえるよう、働きかけてみることが大切です。

もう一つの理由は「家事は妻のほうが得意だから」。これは、やってみたがうまくいかなかった、妻が出来栄えに不満そうだったなどの経験から、やる気をなくしてしまった状態ですね。

実際、夫が家事をするようになっても、妻の負担感はほとんど減らなかったという調査結果も出ています。せっかく家事に参加しても、残念ながら妻が期待するほどの戦力にはなっていないのです。

男性には「見えない家事」は見えない

一般的に、男性には家事の複雑さが見えていません。例えば食事をつくる場合は、事前に冷蔵庫の中身を確認して、足りないものだけを買ってくるという計画性が必要です。しかし、不慣れな男性は仕事と同様に家事にも計画性が必要だとは思っていないので、すでに家にある食材を買ってきてしまうこともしばしば。

最近は、こうした「見えない家事」についての議論も始まっています。たとえば、料理や掃除、洗濯といった一般的な家事に付随していながら、別の手間がかかる作業のことを指します。食事の支度で言えば、買い物と料理以外の部分、つまり冷蔵庫の中身確認などが当たります。

洗濯用の洗剤の在庫を確保して、必要なときに詰め替える、洗った皿を食器棚に戻すといった作業も同じ。どれも一つひとつは短時間で済みますが、積み重なれば負担感が大きくなります。普段家事をしていない男性には、この部分が見えていません。いわば家事を「ナメている」状態なので、せっかくやっても妻の負担感は減らないというわけです。

家事も可視化とタスク管理を

見えない家事は「見える化」することが大切です。男性も、仕事ができる人なら見えにくいものを可視化するのは得意なはず。仕事と同じように可視化し、さらには「自分でタスク管理をする」という意識を持って行えば、最初は不慣れでもいずれ大きな戦力になるでしょう。

家事というタスクは、自分たちで管理するのが基本です。しかし、この能力は料理や洗濯の一部を単発で手伝うだけでは身につきません。料理や洗濯にまつわる、一連の見えない家事までこなしてこそ身についていくのです。

ですから、夫に家事を任せる時は思い切って“丸投げ”してみてください。夫が料理を担当するなら、「週一回」といわず、二週間程度継続して、冷蔵庫の中身確認から買い物、料理、後片付けまで全部任せるのです。

男性もこうした経験を積んでいけば、仕事で発揮している可視化やタスク管理という能力を、家事でも発揮できるようになっていくはずです。ただし、任せる際は“ゆるく”の意識を忘れずに。多少の質の低下は許容するよう心がければ、無駄な衝突も防げるはずです。

質の低下を許す寛容な社会を目指して

最近はテレビ番組にも、料理をするパパがよく登場するようになりました。しかし、毎朝時間をかけて手の込んだお弁当をつくるなど、非現実的なシーンも少なくありません。実際には、忙しい毎日の中でそんなことをするのはほぼ不可能と言っていいでしょう。正直、それが夫・父親のあるべき姿だ、などという価値観はいらないと思います。

それよりも、家事負担をいかに夫婦で分け合うか、いかに楽にするかといったことに力を注いでほしいものです。どんな家事にも、今より手を抜ける部分はあるはずです。欧米の人から見れば、日本人が料理や掃除に求めるクオリティーはレストランやホテル並み。この質を少し落としても、生活に支障はないと思います。

質の低下は許せない、けれど家事負担は減らしたいという人には、アウトソーシングという手もあります。ただ、こちらは費用がかかりますから、そこまでの金銭的余裕がなければ、自分たちの意識を変えていくほうが現実的でしょう。

負担を減らす上では、有償労働である仕事に対しては働き方改革など国による策があります。しかし、無償労働である家事には国は介入できません。民間で時短家事を推進していくか、個人個人が工夫するしかないのです。

女性の家事負担を減らすには、男性の参加が必須です。そのためには、男女とも仕事にも家事にも多少の質低下を許す“ゆるさ”が大事。この意識は今後、より寛容な社会をつくっていく上でも重要な鍵になると思います。