危機管理を目的に本格導入した連邦政府
一方東海岸では、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件をきっかけに関心が高まりました。オフィスや街全体が、テロや災害などで使用不能になった場合であっても、テレワークが可能であれば業務を継続することができます。連邦政府の管理職の間で、「危機管理としてのテレワーク」という認識が広がったことが、大きな後押しになりました。
2000年代初めに、各省庁に対してテレワークの制度導入を義務付ける法律が生まれ、何度かの改正を経て、オバマ大統領が2009年の就任直後に法案に署名した「テレワーク強化法」が2010年に施行されました。
「テレワーク強化法」は、連邦政府の職員にテレワークを推進するための法律で、全職員を対象に、テレワークを推進するためのさまざまな義務を定めています。例えば、各省庁はテレワークに関する方針を策定し、テレワーク推進の現場責任者となる「テレワーク・マネージャー」の任命を求められています。
テレワーク・マネージャーは、テレワークが可能な部署や職員を洗い出します。テレワークが可能とされる職員にはまず、研修を受けさせます。具体的な研修内容は省庁によって違いますが、テレワーカーにはどんな責任があるか、職場とどうコミュニケーションを取るべきか、などを学びます。また、テレワーカーを管理する上司には、テレワークをしている部下の仕事の管理の仕方、テレワークの計画をどのように設定するかなどを学習させ、テストを行ったりします。
さらに、週に何日テレワークをするのか、緊急の時だけなのか、などの条件を話し合って書面化し、双方が合意文書に署名してようやくテレワーク開始となります。人事院は毎年、どれくらいの人がテレワークをできたか報告書にまとめ、議会に提出しなければなりません。
セキュリティーの管理は厳しく、自宅ではプリントアウトが禁止されていたり、職場で支給されたパソコンを使うことなどの規定もあります。小さな子どもが家にいる場合は、ベビーシッターを雇い、仕事に支障がないようにすることも守るべき事項の一つとされています。コロナ禍の非常事態の現在は特別措置として、ベビーシッターを雇わなくてもテレワークが可能になっていますが、人事院から出されているガイダンスには、子供の世話をしている時間は休みの時間として扱い、仕事時間とは分ける事が必要だと書かれています。